「・・・・・・ここまでね」
そう言ったとき、つかのま、脳裏に天を舞う王獣の姿がひらめいて、消えた。
「ああ。ここまでだな」
イアルはつぶやき、腕をつかんでいた手をあげて、エリンの頭を抱いた。
エリンは、引き寄せられるままに、その胸に頬をつけた。
「生まれて、死ぬまでのあいだに」
イアルの胸から、こもった声が伝わってきた。
「この十年があって、よかった」
それを聞いたとたん、また涙があふれた。声が出なかった。
この十年があって、ほんとうによかった。心の底でいつも、長くは続かぬ平穏であることを感じてはいたけれど、それでも、幸せな日々だった。
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- 感想投稿日 : 2015年3月16日
- 読了日 : 2015年3月16日
- 本棚登録日 : 2015年3月16日
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