青の時代 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1971年7月27日発売)
3.28
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本棚登録 : 1893
感想 : 153
5

三島再読シリーズ。

太平洋戦争直後、東大在学中に怪しげな金融会社を設立し、大きな富を手にしながら自ら命を絶ったという実在の人物にインスパイアされた作品。

、、、ということになっているが、私的には若い頃の三島の典型的な自意識過剰独白モノの一つ。
彼の後期の傑作群のようにビジネス小説としても圧倒的に面白い、というほどではなく、むしろ言葉の知恵の輪パズルのような観念的な議論をエンタメする小説と私は解釈した。

「誠は今ほどこの無垢な女を愛している瞬間はないように感じたが、今に限って彼はこの種の感情をゆるしておきたくないと思った。人間の弱さは強さと同一のものであり、美点は欠点の別な側面だという考えに達するためには、年をとらなければならない」(p168)。
えーい、このややこしいやつめ!
もっとシンプルに生きろシンプルに。と、感じるのは私が十分に「年をとった」からであって、こういう観念に絡めとられながらそうだオレはそこらへんの凡人と違ってクールに自分を相対化してるんだ、と実は熱く感動している若い読者は今もたくさんいるに違いない。

若さゆえの自分の能力への全能感とそれが嘘っぱちかもしれないことへの一抹の不安、そして圧倒的な金銭を手にして舞い上がるあの感じ。
三島の言葉で言えば「架空の天職にとり憑かれていながらも、この天職を軽蔑することを片時も忘れていない男の情熱」(p152)。

これを読んで私が個人的に思い起こしたのは、現代で言えば「投資銀行のバンカー」という職業であった。あくまで「たとえば」ですよ。でも、ああ、いつの時代もこういうのってあるんだなと。
しかし、これを執筆したときの三島はまだ20代か。なんでこんなになんでもお見通し感出せるんだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2023年1月28日
読了日 : 2023年1月28日
本棚登録日 : 2023年1月28日

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コメント 3件

本ぶらさんのコメント
2023/05/21

こんばんは。
三島由紀夫って、前々から読んでみたいと思いつつ、手が出ないでいるんです。
そんなこともあって、例のグーグルの「Bard」に聞いてみたんです。
「三島由紀夫を読んでみたいんだけど、どれがいい?」って。

そしたら、出てきたのが、「仮面の告白」、「金閣寺」、「潮騒」、「鏡子の家」。
その並びがおススメの順番ってことではないと思うんですけど、「金閣寺」より「仮面の告白」が先に出てきたことが、(三島由紀夫を知らない自分としては)意外でした。
あと、「潮騒」はわかるけど、「鏡子の家」って、そんなにおススメな小説なんですか?
それも意外でした。

ちなみに、「盗賊」というのが気になっていて。
「最初に読むのが『盗賊』は適当でない?」と、あらためて聞いたら。
「他のに比べてわかりにくいからおすすめしない云々」と。
そんな風に、なかなか考えさせてくれる回答が返ってきて面白かったです。

ちなみに、三島由紀夫をそれなりにお読みになっているnaosunayaさんとしては、Bardのその回答、どう思われますか?
よかったら教えて下さい。

naosunayaさんのコメント
2023/05/27

本ぶらさん、こんばんは。
バードに聞くのがいいですね笑
では私なりに饒舌に語りますね。

まず、三島の作品の傾向を語るのにそもそも二分法はほんとうは不可能なんですが、三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる気がしています。もちろん大半の作品がベン図のように重なり合ってますが。
もう一つの軸としてこれも強引な二分法ですが、甘美系と酷薄系があるんじゃないか、とも勝手に思っています。

で、何が初読でおすすめか、となるとやはり年齢の影響が大きいと思うんですよね。
高校か、大学くらいな、主人公の世代的にも、脳内はどうせ99%色恋でしょうから恋愛甘美系で「潮騒」社会派フレイバーで「仮面の告白」、そしてオレこそは他を圧倒する感受性の持ち主だ、という中二病が完治していないなら断然「金閣寺」ですね。
もし相応に社会経験を積んでいるなら、社会派系かつ酷薄系の傑作「宴のあと」でしょうか。これは政治物エンタメでもあり人生後半の寂寥感も味わえ、しかもギャグがおもしろいというミラクル作品です。
個人的には恋愛系かつ社会派系の至高の作品、「春の海」を勧めたいがここでつまづいて三島が嫌いなるのはもったいないので、やはり初読のおすすめではないかなと。
ちなみに「盗賊」は読んでないと思います、あるいは読んだとしても忘れてる。
鏡子の家、も社会派系の傑作と思いますが初読向きですかね?
所要を拝見する限り本ぶらさんが、三島をお好きになる可能性は高いと思います。では。

本ぶらさんのコメント
2023/06/04

おススメ紹介、ありがとうございました。
「三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる」というnaosunayaさんのそれは、なんとなく感じてはいたんだけど。でも、頭の中で明確になっていなかったので、あー、なるほど!とかなり納得でした。
ただ、「甘美系と酷薄系」の甘美系はともかく、酷薄系というのが全然イメージできなくて。
であれば、naosunayaさんが酷薄系のおススメとしてあげている「宴のあと」、それから読んでみるか!と。
そんなわけで、とりあえずアマゾンで「宴のあと」を見てみたら、ふと、「美しい星」というのが目について。
つい、そっちを先に見てみたらw、「自分たちは他の天体から飛来した宇宙人であるという意識に目覚めた一家云々」という紹介文に、な、なんだ、これは!? これは面白そーだぞ、と(^^ゞ

というわけで、naosunayaさんのおススメからは全然外れてしまって、申し訳ない限りwですけど、私的には「美しい星」が三島由紀夫の最初の本として適当そうだという結論に至りましたw

とはいえ、naosunayaさんのおススメがなかったら、たぶん「美しい星」に気がつくこともなかったと思うので、ホント感謝です(^^)/

三島由紀夫を読んだわけではないですが、あらすじ等を見ていると感じるのが、子供の頃に親がテレビで見ていたメロドラマのような設定だなぁーってことなんですよね。
それは、もちろん三島由紀夫がメロドラマを真似たわけではなく、たぶん、メロドラマが三島由紀夫の小説を真似たってことなんだと思うんですけど。
つまり、三島由紀夫(の小説)って、当時はそのくらい世の中に影響を与えていたのかもしれないなーって。
そういう面でも、楽しんでみたいですね。

ということで、また、よろしく。

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