三島再読シリーズ。
太平洋戦争直後、東大在学中に怪しげな金融会社を設立し、大きな富を手にしながら自ら命を絶ったという実在の人物にインスパイアされた作品。
、、、ということになっているが、私的には若い頃の三島の典型的な自意識過剰独白モノの一つ。
彼の後期の傑作群のようにビジネス小説としても圧倒的に面白い、というほどではなく、むしろ言葉の知恵の輪パズルのような観念的な議論をエンタメする小説と私は解釈した。
「誠は今ほどこの無垢な女を愛している瞬間はないように感じたが、今に限って彼はこの種の感情をゆるしておきたくないと思った。人間の弱さは強さと同一のものであり、美点は欠点の別な側面だという考えに達するためには、年をとらなければならない」(p168)。
えーい、このややこしいやつめ!
もっとシンプルに生きろシンプルに。と、感じるのは私が十分に「年をとった」からであって、こういう観念に絡めとられながらそうだオレはそこらへんの凡人と違ってクールに自分を相対化してるんだ、と実は熱く感動している若い読者は今もたくさんいるに違いない。
若さゆえの自分の能力への全能感とそれが嘘っぱちかもしれないことへの一抹の不安、そして圧倒的な金銭を手にして舞い上がるあの感じ。
三島の言葉で言えば「架空の天職にとり憑かれていながらも、この天職を軽蔑することを片時も忘れていない男の情熱」(p152)。
これを読んで私が個人的に思い起こしたのは、現代で言えば「投資銀行のバンカー」という職業であった。あくまで「たとえば」ですよ。でも、ああ、いつの時代もこういうのってあるんだなと。
しかし、これを執筆したときの三島はまだ20代か。なんでこんなになんでもお見通し感出せるんだ。
- 感想投稿日 : 2023年1月28日
- 読了日 : 2023年1月28日
- 本棚登録日 : 2023年1月28日
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