豊饒の海 第二巻 奔馬 (ほんば) (新潮文庫)

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爆発的なおもしろさで物語が進行中。

夭折した清顕が生まれ変わったのは、右翼の大物の一人息子で「大義のために死す」ことを夢見る青年、飯沼勲。昭和前期の不穏な世相の中、「悪いのは政府と財閥」だ、と昭和維新(要するにテロ)実行に命を燃やしている。

清顕の親友である本多は、裁判官としてエリート街道を驀進しているのだが、ある事件をきっかけに「清顕の輪廻転生」を確信し、合理性に基づく世界観が根本から揺らいでしまう。稚拙な計画が露見して勲が逮捕されたとき、本多は職を辞してまで弁護を買って出るのだった。

ここからの法廷活劇が最高なのだ。
「検事は予審終結決定の、単なる殺人予備罪という公訴事実に不満なのである。何とか事件を大きく、できれば、内乱予備罪にまで持って行きたい。そうすることによってのみこの種事件の禍根が絶たれると信じている。が、そう信じることによって、ともすると論理の足取が乱れてくる。大計画から小計画への縮小変更の立証にばかり骨折って、殺人予備のほうの構成要件の充足に手抜かりがある。『この間隙を狙って、できれば一押しに、殺人予備さえ否定してしまおう』と本多は思っていた」(P382)。

尋問の合間に唐突にはさまれる笑い。本多にしかわからない、背筋に戦慄が走るような転生の新証拠。クライマックスは、勲がひそかに思いを寄せている年上の女性、槇子の証言・・・。

「勲は『決して憎くて殺すのではない』と言っていた。それは純粋な観念の犯罪だった。しかし勲が憎しみを知らなかったということは、とりもなおさず、彼が誰をも愛したことがないということを意味していた」(P407)

第1巻は恋愛小説かと思ったら社会派小説でもあった。第2巻は社会派小説ながらつまるところ恋愛小説だとさえ感じる。そして同じように、大人社会の隠ぺいと青年の純粋のぶつかり合いが悲劇へと突き進む・・・

どうでもいいが、法曹人が戦前から自分のことを「当職」と称していたのがちょっと新鮮(笑)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2019年1月1日
読了日 : 2019年1月1日
本棚登録日 : 2019年1月1日

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