打撃の神髄-榎本喜八伝

著者 :
  • 講談社 (2005年4月27日発売)
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感想 : 8
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「記録には残るが、記憶に残っていない選手」の本(50代以上の方であれば、プレーを見たこともあるのだろうが)。
野村や稲尾と同年代なのに、そして彼らから最も恐れられた選手なのに、引退後に全く公の場に出なかったせいか、映像や写真がまあ残ってない。
それどころか、数々の奇行のせいで、ちょっとアレな子の印象しかない。
このオカルトじみた存在に光を当て、再評価を試みただけでも、本書の価値は十分にある。

読むほどに思うのは、彼がいかに一心不乱に野球に取り組んだか、そしていかに悩み続けたのか、ということ。
またその動機も、「3割打たなきゃお給料が下がる」「もう幼少期の極貧はいやだ」という、もう今の日本人には共感できないもの。
理想の打撃を求めて合気道に出会い、一瞬「神の域」に到達したはいいものの、一週間で終了。
今度はそのイメージに捉われて、また苦悩し、窓ガラスやらコーラの瓶を叩き割る。
若手に打撃理論を伝授しようにも、彼らはまともに取り合ってくれない。
引退後にコーチ招聘の声を待っても、そんな声はかからず。
物凄い実績を残した人だというのに、もう、なんというか、つらい。

打撃理論のことはよくわからないけれど、そして抽象的すぎる彼の理論は万人受けしないだろうけれど、このあまりに声の小さい「記録には残るが、記憶に残っていない選手」の軌跡・思考は、きちんと残さなければいけないことだと思う。
もう声を聞こうにも、この世に彼はいないのだから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: そのた
感想投稿日 : 2012年10月1日
読了日 : 2012年9月30日
本棚登録日 : 2012年9月30日

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