サウスポイント (中公文庫 よ 25-5)

  • 中央公論新社 (2011年4月23日発売)
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《本文より》
「ごめんね、急に行かなくてはいけなくなったの。
家のつごうに逆らえるほど大人じゃない自分の年齢が悲しい。
向こうから必ず電話するから。
あなたの人生にいっぱいいっぱいいいことがこれからも起こりますように。
もうお昼寝の時に手を握ってあげられないし、アイスコーヒーにミルクと蜂蜜をいっぱいいれてぐるぐる混ぜて飲みほすあのやり方もできない。
あなたは私のなんだったの?
自分じゃないのに自分みたいなあなた。
あなたの人生にいっぱいいいことがこれからも起こりますように。
満天の星のように、きれいな滝の水みたいにどんどんふりそそぎますように。
あなたにもあなたのママにも遠くにいるあなたのパパにもこのお祈りが届きますように。」

いろんな意味でありえないことだったのに、ものすごく好きになってしまっていた。彼はいちばんずるい角度から私の心にすとんと入ってきて、思いもよらない方法ですっかり私の心を奪っていた。

道徳的で真剣に考えているふうでも私の考えていることは自分を守ることばかりで、かたや死んだ弟のために自分の人生をいったんすっかり投げ出し、でも犠牲的にはならない珠彦くんのほうがよっぽどぶれていない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: よしもとばなな
感想投稿日 : 2013年6月4日
読了日 : 2011年5月4日
本棚登録日 : 2011年5月4日

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