フィリパ・ピアスの作品というと、だいぶ前に読んだ「「まぼろしの小さい犬」を先ず思い出す。
満足度の非常に高い一冊で、まさかこちらの代表作が未読だったとは、気づきもしなかった。これではとてもひとにピアスの作品を紹介などできない。
夏休みでもあるので、さっそく読んでみることに。そして心の底から満足した。
まるで深く心地よい眠りから覚めた気分で、本の持つ力に久々に陶酔した。
お話のテーマは「時間」。
ある老女の失われた幼年時代に、主人公のトム少年が入り込むという幻想小説。
緻密な構成と高い描写力で、ファンタジーとひと口で呼ぶにはもったいないほど。
タイトルにある「真夜中の庭」の表現が実に詩情豊かで美しく、著者の自然に対する感受性の高さがよくあらわれている。
真夏の太陽、稲妻や雷鳴、冬のキーンと引き締まった空気、冴え冴えとした月の光、特に真夜中の庭で真っ先に目に入るイチイの木やクラシカルな衣装を着た少女との出会いなど、まるで目の前に存在するかのような臨場感でストーリーが進んでいく。
トムの心理描写も細かに描かれ、しかも語りすぎることがない。
過去、そして現在とはなんなのだろう?
夜の庭で知り合った少女・ハティとの時間のズレはあまりに切ない。
トムはどうやって「時」を自由に出来るのか。
ハティの生きる時間との差を、縮めて永遠にすることは可能なのか。
そんなことを願いながら読んでいくと、終盤で小さな事柄のすべてが回収されていく。
年をとるということは物語を育てることで、幼年時代もすべてひとりの人間の中に生きているということ。ハティの成長後の老女が、それを教えてくれる。
ふたりの奇跡のような出会いもまた、幻想小説ならではのこと。
トムとハティがしっかりと抱き合うラストは、しみじみと素敵だ。
もうトムは「時」を手に入れようと泣かないだろう。成長を恐れないだろう。
老女は、年老いてもなお夢見ることを楽しむだろう。
時の旅人となり、私も真夜中の庭で会いたいひとがいる。
イエス・キリストとブッダそのひとだ。
でもまるで違う話になりそうなのでここでおしまい。
夏休みが舞台の話を、この夏に読めて大満足だった。
- 感想投稿日 : 2018年8月26日
- 読了日 : 2018年8月25日
- 本棚登録日 : 2018年8月26日
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