野蛮な読書 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2014年10月17日発売)
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本棚登録 : 491
感想 : 33
4

著者のことを、食べ物エッセイを書く方という認識しかなかったことを、読み出してすぐ後悔した。
非常に面白い。軽快な達文にたちまち惹きこまれる。
エッセイの中にはもちろん食べ物も登場するが、それよりも、本。
自宅は言うに及ばず、散歩で立ち寄ったハンバーガーショップ、電車内、旅先の宿(ホテルではない)、喫茶店、伊豆の断食道場、更には子どもの頃蒲団にもぐって読んだ思い出まで出て来て、もうありとあらゆる場所で読みまくる。
そして、次から次へと「本が本を連れてくる」。
13編のエッセイの中に、実に103冊もの本だ。

「野蛮」と「読書」の結びつきは、最初のエッセイで登場する。
食事の後、頂き物のカステラをお箸で切り分けながら食べる。
行儀の悪い野蛮な感じだが、カステラは動揺も見せず泰然としてる。
あら、野蛮ていいわね、と続く。
ちょっと(かなり)大胆で自由自在。思うがまま。繊細にしてまっすぐ。
そんなアバンギャルドな平松さんは、本から本へと野蛮なほどに紹介してくれる。
それも、ほぼ100%小説というとんでもない偏り方だ。
おまけに新刊ではない。昭和の香気漂う旧刊揃い。
既読のものは半分くらいしかないが、それでも頁をめくる手は止まらない。

コロコロと連鎖していく本の記憶。
「こんな書き方もあるのか」と驚くような、めくるめく世界だ。
嵐山光三郎さんの後書きによれば、亡くなる直前まで寺山修二さんと親しくしていたらしく、「天井桟敷」の中でこの「技」は鍛えられたのではと推測している。
しかし、「技アリ」だけではない。
第三章の「春昼」での、現世から遊離してしまうそうなほどの本の繋がり方。
全然脈絡などないかのように見えて、思いがけない野放図な地図が描けている。
続く「夏のしっぽ」では、早朝の散歩で偶然ラジオ体操に紛れ込んだところから連想が始まる。
過去に向かって手招きする本として池内紀の「祭りの季節」。
そして山田太一の「異人たちの夏」である。もう脳髄が痺れそう。これ、映画も良かったよね。
「雪国ではね」では、亡くなった猫のぬくもりから、三浦哲郎の「忍ぶ川」へと繋がり、更に「短編集モザイク」へと向かうのだ。ここはほとんど嬉し泣きだ。

「書を捨てずに町へ出た」行動派のアバンギャルドは、こちらの「読みたい」気持ちを猛烈にかきたてる。平松さん、しばらくついて参りますね。
第28回講談社エッセイ賞受賞作。(これは読後に知った。)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本にまつわる本
感想投稿日 : 2020年5月30日
読了日 : 2020年5月30日
本棚登録日 : 2020年5月30日

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