「とんことり」というタイトルですが、ちょっと面白いでしょう?
始めて手に取った時、私は「とんこ取り」か「とん小鳥」かで悩みました(笑)もちろん、どちらもはずれ。
これは、何かの擬音です。何の音なのでしょうね。
読み進めるとそれが分かります。分かったとき、とても温かい気持ちになります。
主人公は、春から幼稚園に通う「かなえ」という女の子。
山の見える町に家族で引っ越して来ました。
何もかも知らないものだらけの中でひとり不安な「かなえ」ですが、郵便受けに届く「かなえ」宛の不思議な贈り物で新しい友だちと出会っていきます。
挿絵は林明子さん。お好きな方も多いでしょうね。
「かなえ」の切ない心の動きを、それは上手に表現しています。
荷物の整理で忙しいお母さんは、届いた郵便には関心を持ってくれません。それで、郵便は「かなえ」だけの秘密になりました。ひとり遊びをする「かなえ」の傍らにあるのは、マトリョーシカ。ページを進めると、それで遊んだ形跡もあって、少女の寂しさを表現しているように見えます。
届いたものの名前をつぶやきながら、ひとりおはじきをする「かなえ」。その向こうにもマトリョーシカ。ああ、これはあの時の私だ、と思い出して、ちょっぴり切ないのです。
作者の筒井頼子さんは、「寂しい」とか「不安」とか「心細い」などという言葉は一切使っていません。
それでもひしひしと伝わってきます。
林さんの絵もそれをより一層引き立てています。
郵便を届けてくれた子と、「かなえ」が出会う最後の方の場面では、相手の子の顔が描かれています。
その表情もいいですよ。ラストの二枚の挿絵には、言葉はありません。
春の風景の中で、「かなえ」のはじけるような笑顔が、やさしい感動を運んでくれます。
お母さんと一緒に新しい幼稚園を見に行く場面もあります。
その絵の中に、郵便を送ってくれた相手が存在しますが、この時はまだ「かなえ」はそれを知りません。
でも読み手の私たちは、最後まで読んでから再びこのページに戻り、その子を探す楽しさを与えられます。
「かなえ」を見つめる子を発見したとき、何だかとっても嬉しくなりますよ。
子供の頃に抱いた不安や寂しさ。
そして、友だちに出会ったときにそれらが満たされる素直な嬉しさ。
しみじみと気持ちが温かくなる名作です。
さて、「とんことり」って何の音でしょうね?それは読んでからのお楽しみ。皆さんもきっとその音を聞きたくなってきますよ。
- 感想投稿日 : 2010年2月19日
- 読了日 : 2009年3月7日
- 本棚登録日 : 2009年3月7日
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