輝ける闇 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1982年10月27日発売)
3.67
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本棚登録 : 1552
感想 : 115
4

あんこう鍋(いわきで言う"どぶ汁"に近い)みたいな作品だった。文学の出汁がこってりと出ていて純粋に美味い。のめりこむように貪りつつも、なんかちょっと食べられない部位もあり、食後の余韻はとっぷり残る。

さまざまな表現や描写がこれでもかってぐらい豊かで鮮やかでかつ繊細。ベトナムを五感で感じるし、戦場の迫力が真に伝わる。映画化できそうな綺麗に段階を踏んだストーリーではないのにここまで前のめりになってしまうのは、開高健の作家としての総合力がそうさせるのだろう。

キーワードは「匂い」なのかなと思った。「使命は時間が経つと解釈が変わってしまう。だけど匂いは変りませんよ(108項)」とウェイン大尉に話すシーンがひっかかっていて、その後の場面転換や戦闘シーンにおいては重要なところにほぼ匂いに関する表現が出てくる。記者としての使命が曖昧になる一方、死や生に関わる人間の、褪せることのない生々しい匂いを、主人公は心に残すことになったのだろう。

あとベトナム戦争の知識を少し勉強してからの方がより面白かったな。読んでるうちに分かるだろと思ってしまったが結果、後悔した。


以下は個人的に気に入った表現集

45 空をみたす透明な炎の大波に撫でられて私はベッドにたおれ、とろとろと沈んでいく

48 生理の限界を一瞬で突破された恐怖の圧力がまだ体内にこもって、ぴくぴく動いていた

76 きわめて優雅に法外な値をささやき、私がさしだす紙幣を卑しみきった手つきでつまみとった。まるで羽毛をつまむような手つきであった。威厳をそこなわずに下劣なふるまいをしたかったらこの女に習うといい。

84 塹壕や汗や野戦服が知らず知らず私の皮膚の上に分泌していた石灰質の硬い殻のようなものが音なく落ちた。脱皮した幼虫の鮮やかな不安が全身にひろがった。

226 私は冷血でにぶい永遠の無駄だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年4月12日
読了日 : 2018年4月12日
本棚登録日 : 2018年4月12日

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