イラクサ (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2006年3月29日発売)
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本棚登録 : 799
感想 : 72
4

アリス・マンロー単独の短篇集としては初めて読んだのだが、いや~、これは良かった。小説を読んだなあという深々とした満足感でいっぱい。

すごく刺激的というわけではないのに、どこかスリリングな読み心地がする。よくあるお話でもないのに、どういうわけか、これが人生なのだと思わせられる。そう、読みながらずっと、長くてはかない人生というものを考えずにはいられない、これはそういう小説だ。

最初の「恋占い」という短篇にまずぐっとひきつけられた。残酷な話か、はたまた「いい話」か、どちらにすることもできそうだが、作者はどちらにもしない。そこがいい。独身の家政婦ジョアンナの造型が見事。映画化されたそうだが、日本では公開されていないようだ。観てみたいなあ。

表題作「イラクサ」も良かった。「旅仕事の父に伴われてやってきた少年と、ある町の少女との特別な絆。30年後に再会した二人が背負う、人生の苦さと思い出の甘やかさ」と紹介されている、まさにその通り、苦くて甘いお話だ。ゴルフコースで通り雨と突風に見舞われた二人が近くの草原にうずくまる。そこに咲いている野花の描写が美しい。でもその中にはイラクサもあって、二人ともかぶれてしまうのが象徴的だ。

最も心に残ったのは「家に伝わる家具」。語り手の女性は、豊かではない家や支配的な母親、閉鎖的で俗っぽい親戚たちを嫌悪し、故郷を飛び出してもの書きとなっている。これはアリス・マンローの作品では繰り返し登場する設定のようで、ほぼ作者自身とみていいようだ。自負心と孤独がない交ぜになったこの女性に、生い立ちは違っても、自分を重ね合わせる人は結構いるんじゃないだろうか。少なくとも私はそうだ。

「わたし」は、食べ物のことや噂話で明け暮れする暮らしにはうんざりだ。身内の女たちは、まるでそうする当然の権利があるかのように、「わたし」にズカズカと踏み込んでくる。容姿について、性格について、生き方について。「あら、太った?」「あんたは前から頑固だったものね」「もっとお母さんの面倒を見てあげたら?」などなど、などなど…。うーん、身につまされる。

さらに、そうなのよね~と思うのは、彼女が時折、結局そういう人たちの方が正しいのではないかと思ってしまうところ。自分の方が畸形で、真っ当なものから切り離されて漂っているのではないかと。でも、彼女は一人でドラッグストアのまずいコーヒーを飲みながら、自分の書きたい物語について考える。
「それがわたしの望んでいたもの、それがわたしが留意せねばと思っていたこと、それこそわたしが送りたいと思っていた人生だった」

こういうものに出会えるから本を読むのはやめられない。クレストブックスらしく装幀も美しい一冊だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外の小説
感想投稿日 : 2014年6月24日
読了日 : 2014年6月24日
本棚登録日 : 2014年6月24日

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