急死した父親から届いたメール。
そこには不可解な頼みごとが綴られており、その最後には、決して誰にも言わないようにとの言葉が書かれていた。
理由も目的もわからないまま父の遺志を継ぎ研究をすすめる、大学院生の息子、研人。
一方、難病を患い余命いくばくもない息子のための治療費を得ようと、アフリカへ向かう民間軍事サービスの傭兵、イエーガー。
どこにも接点の見当たらない2人。
東京の研人とアフリカにいるイエーガーの人生が交錯する。
研人の行動を国防を阻害するものだとして排除にかかるアメリカの諜報部。研人の知人や友人、家族にもその手が及び、いよいよ追い詰められていく。
行動範囲が狭められ大切な人たちにも近づけなくなっていき、その孤独は増す。
読んでいると、はらはらする。息が詰まる。
しかしながらすべてを投げ出して、その場から消えてしまいたくなるような、もうどうにでもなれといった投げやりな気持ちは湧いてこない。
それは、研人のそばには、正勲という信頼できる友人がいて、彼の研究を支えてくれるからだ。彼は、研人が警察に追い詰められて、自分にも危機が迫ってきていると知ったときも、最悪の場合の結果よりも、うまくいったときに起こるであろう良いほうの結果を信じる明るさがあり、研人のことを決して見放すことはない。
危険を回避できるようにアドバイスを与えてくれる人もいる。
だからだろう。
極限まで追い詰められていても、肉体的には厳しい状態であっても、
信頼できる人が近くにいてくれて、自分がやり通したい使命があることが、未来を感じさせてくれる。
必ず人を助けると決意した彼はますますタフになり、折れない心を持つことができた。
多くの人たちが登場し、それぞれの行動は複雑で、それぞれの利害のためにランダムに動いている。それでも多いとはいえ、地球上には有限の数の人間しかいないわけで、驚くほど離れている人たちが絡まっていることを思わずにはいられない。
あちこちに様々な伏線を張りながら、きっちりと回収されていき納得の結末が用意されている。
バイオレンスもあり、目をふさぎたくなる部分もあった(きっと現実の方がもっと醜いことが多いと思うけど)
現実の世界でも起こっているのでは、と恐怖を感じる作品でもある。
それでも、大いに希望の持てる結末と普通の人が必死に生きるその先にある良心や使命を存分に堪能した。
大きな仕事をやり終えたかのようにふぅと息を吐いて余韻を楽しんだ1冊。
- 感想投稿日 : 2013年9月5日
- 読了日 : 2013年9月3日
- 本棚登録日 : 2013年9月3日
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