あなたに似た人〔新訳版〕 II 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 タ 1-10)
- 早川書房 (2013年5月10日発売)
作者であるロアルド・ダールは、「チャーリーとチョコレート工場」など児童文学の作家だと思っていた。
表紙にイラストの描かれたこの本を読み始めた時、シニカルな笑い(正直笑えないのだが)に驚いた。
確かに映画の「チャーリー・・・」は、子供じみてエキセントリックな感じのするオーナーのワンカさんが強烈に印象に残ってはいるけれど、小説自体もおもしろく、子ども達にずいぶん人気のようだ。
それと比較すると、辛口。
こずるい人や嫉妬深い人。儲け話に躍起になる人。
他人を疑うあまり、その感情に絡め取られ、自滅の道を突き進む人。
それらが乾いた調子で描かれている。
ざらついた後味が残る短編集。
読んでいるときから、眉をひそめてしまうような出来事があれこれ起こる。
訳の妙味というか、どこか外国の生活感が漂っていて、第三者の目線で読んでいけるのがありがたいとすら思う。
ドッグレースでひと稼ぎしようと企む男たちが仕組んだ悪巧みとその周りにいる抜け目のない男たちとの駆け引きとその顛末を描いた、第4話『クロードの犬』。日々の生活の中で出くわす悪意に気づいても、ふたをすることへのためらいのなさ。
植物と話す術を身につけたと信じる男が周りの人たちとの間に巻き起こす出来事を書いた、第1話『サウンドマシン』
今、ちょうど読んでいる梨木香歩さんの『家守奇譚』の善良な登場人物とはずいぶん造詣が違っている。
日本の風土や歴史など、思考の土台となっているものからすると、『家守』の方がなじみやすい。そう思うのは私だけではないと思うけど。
ちょっと困った人たちに対するストーリーは、落語のように、「おまえらほんとに困ったヤツだね。おれもその一人だけどさ」というのが、聴き手も含めて根底にあり、その困ったところを笑いながらも、滋味のある語りで全部まとめてOKを出してくれるから、じんわりしたり元気になったり。そういうどちらかというと、救いのあるオチを求めてしまうのかも。
一見「うわー、ヒドイ!」と思いながらも、いや待て、この毒がもう少し薄まったら、似たようなこと、あるんじゃない?。
私から見たあなたとばかり思って読んだが、『あなたに似た人』とは、あなたから見た私のことなのではないか?はたと気づいて、自分の中のブラックな一面の存在に、ドキッとした。
- 感想投稿日 : 2014年10月4日
- 読了日 : 2014年10月3日
- 本棚登録日 : 2014年10月4日
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