百年法 (上) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2015年3月25日発売)
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ヒト不老化ウイルス(HAV)のヒトへの接種技術(HAVI)の開発に成功した人類。しかし、ヒトが不老化して永遠に生き続けられるようになれば、人口は爆発し、若い肉体のまま心のみ老いて社会が停滞・閉塞する。そこで各国は、HAVIの施術開始に合わせて生存制限法(アメリカと日本では百年法)を成立させた。

「不老化処置を受けた国民は
処置後百年を以て
生存権をはじめとする基本的人権は
これを放棄しなければならない」

そして、かつて内務官僚光谷耕吉が作成し、その衝撃的な内容からお蔵入りとなったレポート(M文書)は、百年法が施行されず不老不死社会となったら、「国民は永遠の生に耐えきれず、精神に混乱を来し、国内は乱れ、国家の体を成さなくなり、やがてロシア、中国、韓国に分割・吸収され、日本共和国は世界地図から消える」と予言していた。

ところが、日本ではHAVI開始から百年が近づくにつれ、国民の不安を背景に政治がブレ出した。何しろ国の舵取りをするべき閣僚達が、自らの死の恐怖から百年法の施行に後ろ向きとなり、2048年、国民投票を実施して百年法を凍結させてしまったのだ。

準備室長として百年法の施行に邁進していた切れ者の遊佐は、百年法を凍結させた現政権に失望し、異端政治家、牛島諒一を担いで選挙に臨み、勝利しして再度国民投票を実施、牛島大統領・遊佐首相の独裁体制を確立して2054年から百年法を施行させてしまう。

しかしながら、大統領に権力を集中させるために遊佐が作り上げた仕掛け "大統領特例法"(大統領がとくに認めた場合、生存制限法の適用を免除することができる悪法)が徐々に社会の活力を奪っていく。庶民の間では百年法に定められた生存可能期限が過ぎてもターミナルセンターに出頭せず、逃亡した人間 = "拒否者"が続出し、密かに潜伏するようになる。2076年、実在しないカリスマテロリスト、阿那谷童仁の名を語るテロ事件が勃発するようになっていた。

本書は、非常にリアリティのあるディストピア小説。

肉体の老化が止まったら、社会は一体どうなってしまうんだう。本書が描くような、結婚と離婚が繰り返され、子供が成人したらファミリーリセット、そもそも出産・子育てはお金のかかる高級な趣味、家族という単位は失われて個人がバラバラ、こんな社会が来るのだろうか。そもそも、時間が無限にあっていくらでもやり直しが効くとなると、急いで何かをやる必要なんてなくなるよなあ。自分を成長させるとか、人生の目標を定めるとか、そういう意識も持てなくなっちゃうんじゃないかな。人生に飽きてしまうなんて、考えるだに恐ろしい。

さて、本書はどのような結末を迎えるのだろうか。下巻が楽しみ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF・ファンタジー
感想投稿日 : 2021年9月17日
読了日 : 2021年9月16日
本棚登録日 : 2021年9月15日

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