著者が、文部省の在外研究員として1987年8月から1年間、英国のケンブリッジ大学に赴任した際の滞在記。英国や英国人を深く洞察したエッセー。
ナイーブな著者の心の動きの激しさは「若き数学者のアメリカ」と基本的に変わらないものの、年齢を重ね家族ができたからか、感情の振幅は抑えられている。
フェアーを絶対視する英国人、大英帝国が繁栄できたのは特殊な島国(防御が容易かつ大陸の学術文化の吸収が容易)であるおかげ、大英帝国の繁栄の中で培われていった人種差別意識、英国人の特徴である現実からの距離感覚(あるいはその誇張された表現としてのユーモア)が英国病の原因等々、本書は英国論として優れていると思う。
「イギリスに独裁者が出現したことがないのは、他のヨーロッパ諸国と比べて目立つが、やはり独裁者につきものの教義に対する距離感覚と言えまいか。」
「「俗悪な勝者より優雅な敗者」を選ぶのである。競争に距離を置くから、ワーカホリックなイギリス人というのはめったにいない。」
「また彼等は、皆である目的に向かって一致協力する、というのも不得手である。つい距離を置いてしまうのである。」
「距離感覚」と言う言葉で英国の特徴を端的に表現した著者の感覚、鋭い!
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
エッセー
- 感想投稿日 : 2018年5月13日
- 読了日 : 2018年5月13日
- 本棚登録日 : 2018年5月13日
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