未来に先回りする思考法

著者 :
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン (2015年8月27日発売)
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本書は、早い段階(2010年)でグローバルなスマホアプリ市場の成長を確信し、(シリコンバレーではなく敢えて)シンガポールに拠点をつくり、当時「ガラクタ」同然だった Android に特化したアプリの収益支援ビジネスを立ち上げて見事成功させた著者が、テクノロジーや社会の未来の読み方を語った書。2015年発行。

著者は、テクノロジー進化やテクノロジーによる社会システムの変革には一定のパターンがあり、それを見抜いていれば、状況が変わっても未来を見通すことができる、という。

そもそも、「人は未来を見誤る」生き物なのであり、著者もこれまで新規事業を立ち上げてきた中で「自分も他人もうまくいくと考えていた事業は失敗し、自分も含め全員が半信半疑である事業は成功した」のだという。

多くの人が未来を見誤る中で、変化に先回りしてビジネスで成功している少数の人達は、テクノロジーを「点」ではなく「線」で捉えている。テクノロジーによって人間の営みは無限に拡張していくのであり、テクノロジーの進化に伴って社会は時間をかけて徐々に効率化していく(今はハブ型社会から分散型社会への移行期))。この大きなトレンドに沿って物事を「線」で考える(原理から考える)ことがビジネスの成功の(というか変化の激しいこれからの時代を生き抜くための)秘訣ということらしい。

また、著者は、こうしたテクノロジーや社会システム変革の大きな流れを踏まえた上で、人の予測は外れる前提で自分の合理的な判断を疑い、「将来的に新しい情報が得られるであろうことを考慮に入れた上で、一定の論理的な矛盾や不確実性をあえて許容しながら意思決定を行う」べきとも言っている。

興味深かったのは、「インターネットの発達は「ガイア理論」の延長であるという、興味深い説」。「俯瞰して眺めれば、それはまるで、人間やコンピュータも含めたひとつの巨大な生命体が生まれているかのように見え」、「テクノロジーが人間の機能を拡張し続けていくさまは、人類全体が、互いに共鳴しあうひとつの生命体に近づいていく過程だと捉えることもできる」という見方があるのだという、なかなか面白いと思った。

また、企業と行政のあり方について、「「貨幣」を中心とした資本主義から「価値」を中心とした社会に移行しつつあ」るため「社会的に価値のある取り組みは利益が出しやすくなって」おり、「今や、社会全体の利益(公益)と企業の利益が一致しないと、企業として成長できない時代」で、「経済的な活動には「公益性」が求められるようになり、政治的な活動にはビジネスとしての「持続可能性」が求められる」ため「経済と政治の境界線はどんどん曖昧になって」いるという。確かに、最近公益的で立派な営利企業が結構目立ってきているような気がする。今後、政治家や行政の役割はどんどん縮小していくのかもしれないな。

我々人間自身の変化についても著者は、「人間の機能を拡張するテクノロジーが最終的に行き着く先は、「どこにでも自律的に考えて行動する自分の分身」です」、「コンピュータの進化は人間そのものの再定義を進めていきます」、「テクノロジーによって、私たち人間自身もまた次の進化のプロセスに向かって動かされている」と言っている。これって人類という種にとって果たして望ましいことなのだろうか?

5年前の、ボリュームの薄い本だったが、結構考えさせられた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2021年2月7日
読了日 : 2021年2月7日
本棚登録日 : 2021年2月6日

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