新参者 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2013年8月9日発売)
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本棚登録 : 12747
感想 : 729
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 小伝馬町で起こった殺人事件。加賀恭一郎が事件の手がかりを求めさまざまな証言者と出会い、その証言者の抱えた謎と殺人事件の真相に迫っていくミステリー

 事件自体平凡な殺人事件です。なので加賀が捜査に参加しなくても他に鋭い刑事がいれば警察は犯人にはたどり着けたのではないか、とも思います。でもこの事件の本当の『真実』は加賀じゃなければたどり着けなかったのだろうとも思います。

 それは殺人事件の真実はもちろんなのですが、事件の犯人や真相とは違う、『被害者自身に関する真実』です。加賀が被害者に関する真実を明らかにすることは、被害者の息子や友人に事件による喪失感を少しでも埋めてもらえるよう真実を明らかにしているように感じました。加賀がいなければきっと被害者の生前の想いは注目されることはなかっただろうし、それが残された人々に伝わることもなかったはずです。

 「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」。そう語る加賀のどんな細かい点も見逃さない洞察力と推理力は、事件の真の解決を目指す優しさの表れだと感じました。

 そしてその優しさは被害者の深い関係者だけではなく、証言を集める際に出会った人々にも向けられます。殺人事件解決にはあまり関係のない、証言者自身の問題も加賀は真実を明らかにしていきます。きっと加賀にとって真実に大きいも小さいもないのだろうな、と思います。もちろん殺人事件という非日常からの大きな真実も大事ですが、日常からの小さな真実でも救われる人がいる、ということを加賀は分かっているのではないでしょうか。それが分かっているからこそ、被害者の細かいことも証言者の謎も調べないと気が済まなかったのだろうと思います。

 この本の中心となっているのは殺人事件ではなく、殺人事件を中心とした人々の人情。平凡な殺人事件を描いたからこそ、事件の捜査の過程で切り捨てられてしまう人々の人情を描き切ることができたのだと思います。それとともに連作調にしたのも、加賀に関わることになる人々の一つ一つの出来事をクローズアップし殺人事件の証言だけにとどまらない、刑事と証言者のかかわりを濃く描くためのものだったのだと感じました。

 人形町という舞台の描き方もまた素敵でした。加賀同様作者の東野さんもこの人形町を歩き回ったのだろうな、と感じました。

2010年版このミステリーがすごい!1位
2010年本屋大賞9位

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー・サスペンス
感想投稿日 : 2013年8月24日
読了日 : 2013年8月22日
本棚登録日 : 2013年8月19日

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