科学技術の進歩が必ずしも人を幸福にするわけではない。できなかったことができるようになったことで、やるかやらないかを選択しなければならなくなる。出生前診断はその最たる例だろう。
本書のメインは、出生前診断で異常なしと診断されたにも関わらず生まれた子供がダウン症だったという女性が医師を訴えた裁判の話だが、異常を知りながら産んだ人や、診断してもらえずに産んだ人の例も含め、出生前診断と中絶のあり方について考察している。
現在の日本の法律では、胎児の障害を理由に中絶することは認められていないが、それは建前であり、実際は「経済上の理由」という名目で障害児の中絶が行われている。上記の裁判の判決の中で、この状態を「法律の弾力的な運用」と呼んで事実上肯定しているが、それはルール作りする人たちが現実を直視せず、過酷な決断の責任を現場に押し付けていると言えるだろう。
もし自分が親の立場だったら、出生前診断はしないという選択をすると思う。結果を受け止めるのがあまりに難しいからだ。実際に決断を迫られた人の苦悩はどれほどだろう。医者も法律家も、単に「可能だからやる」というのではなく、もっと倫理を深く考察して物事を決めてほしいと思う。
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- 感想投稿日 : 2020年1月23日
- 読了日 : 2020年1月19日
- 本棚登録日 : 2020年1月23日
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