この世界を知るための 人類と科学の400万年史

  • 河出書房新社 (2016年5月14日発売)
3.97
  • (11)
  • (15)
  • (6)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 305
感想 : 20
5

・科学ほど人間らしい営みはない。社会的変化や個人の心の動きが科学の発展にどう関係しているかを、本書は著者自身の父との思い出を顧みながら描いていく。科学に原理的に内包される人間らしさを個人的体験を交えて語ったのが本書である。

・知りたいという好奇心が人間の根本的な欲求であり、好奇心に促された精神の変化が定住化→分業化といった社会的変化を生み出した。そして、さらなる人間の特徴は、以前の文化の上に新しい文化を発展させられることである。「文化のラチェッティング」と表現することもできる。文化の発展の中で測量法や数学、法学などのツールが生まれ、最終的には、この世界は一種の目的やルールに基づいて支配されているとする哲学が誕生するに至った。

・自然科学の発展は、世界を支配するのは神が定めた恣意的なルールではなく自然法則に基づく科学的ルールであることを示した。世界観を塗り替えるには、個人個人の偶発的な発見と、その発見を準備する忍耐強さや奇抜さが必要だった。しかし、世界のルールを信じる世界観=ニュートン的世界観=古来からの宗教的世界観は常に共通していた。

・ところが量子論は「量子の世界には確実な事柄など1つもなく、確率しか存在しないこと」を明らかにした。世界を支配するルールがあるように見えるのは人間が通常体験するレベルのマクロな世界に制限されたものであって、人間が通常体験できないミクロな世界においてルールは観測しようとするとルールでなくなってしまう。

・知りたいという好奇心は人間らしさの根幹であると同時に、人間が観測する者である以上科学には人間ならではの限界がある。それでも世界を知ろうとすることには、自分がより大きな存在の一部であるという安心感と、人間の人間らしい美しさを感じ取る上で有用なものである。

・科学史の本なのに、温かみや限界といった人間らしさがそこかしこに溢れている。特に最後の章では泣いてしまった。いい本。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2020年2月24日
読了日 : 2020年2月24日
本棚登録日 : 2020年2月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする