若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

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  • 光文社 (2006年9月15日発売)
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タイトルから想像するのは、よくある若者叩きかもしれない。しかし実際はその正反対と言ってもいいような内容である。
年功序列が奪う日本の未来
とあるように、機能不全に陥ってなお失墜しない年功序列というシステム、及び昭和的価値観により、老人達から若者が搾取されているということが書かれてある。搾取のロジックを簡単に説明する。搾取する側の組織は三つ、構成員はいずれも老人だ。

1.企業
年功序列は、企業が成長し続けるという前提の基でしかありえず、現代社会では適さない。しかし既にそのシステムにより高い役職になった老人の高い給料を賄う必要があり、そのツケは若者に回る。具体的には、新規採用枠の削減によるコストカットや派遣労働者等の安価で若い労働力を使うことだ。

2.労働組合
上記内容と重複するが、年功序列により、【年を重ねただけで】重役になった人間の高いコストの削減は労働組合が阻止する。さらに、成果主義の導入も、同じようなリスクがあるため断固反対する。若者の立場からすると、成果主義を導入してもらう方がチャンスに恵まれるのに何故労働組合は反対するのだという疑問が枠。それは、労働組合もまた、年功序列組織だからだ

3.国(≒社会)
まず国の政策。公務員の削減による経費削減を謳い国民の支持を仰ぐ。しかしその実態はなんのことはない、新規雇用の削減、つまり若者の削減だ。既に働いている世代を首にするということはない。
次に年金に代表される、老人優遇制度だ。医療費や年金等、高齢者向けの支払いが全体の約7割以上、児童手当など少子化向けの予算は3.7%(2007年)である。ちなみにヨーロッパでは高齢者向けは4~5割、若者向けは1割ほどは確保されている。
さらにこれは私見だが、法律によりリストラがし辛くなっているのも、既得権益を守りたい老人達がそういうシステムを作っているためであり、これがある限り年功序列システムはなくならないのではないか。
こうして最後まで高給で安定して努めあげた団塊の世代が引退することで、新たな市場が生まれるとする経済アナリストもいる。しかしその半面、普通の給料で普通に家族を持つ夢を断たれた若い世代、あるいはそうした家庭から生まれるはずだった新たな命が踏みにじられたことを忘れてはいけない。社会は、そうした普通の幸せや若者の未来の代わりに、大型バイクやリゾートマンションの売り上げを選んだのだ。

こうした搾取構造、すなわち年功序列と昭和的価値観の蔓延こそが少子化の原因と著者は語る。

では、搾取されないために若者には何ができるのか?

まず、年功序列というレールがないことをしっかりと理解することだ。「いまはつまらん仕事でもいずれ出世するから黙ってやれ」というのは昭和の価値観で、将来上のポストに上がれる保障などどこにもないのだ。一生そのつまらない仕事を続ける可能性が高い。
こうした古い価値観から解放されることを、【心の鎖を解き放つ】と著者は表現する。レールに先が無いと判断すれば、そこから降りる決断をする覚悟も必要だと言うことだ。
次に、働く意味と真摯に向き合うこと。
働くとはどういうことか、自分がしたいことが何か、内なる声に耳を傾ける必要がある。かつては定年まで勤め上げるということが目的となっていたし、それは間違いではなかった。何故なら給料もポストも必ず上がったからだ。しかしいまは違う。給料、ポスト、それらが定年まで同じでも良いのか、自分との相談になる。人が本来働く目的の中に「定年まで勤め上げる」という物は存在しないことを意識することが大切だ。
最後に、やや包括的で曖昧な表現になるが、行動すること。
選挙しかり仕事しかり、若者は権利を主張することが大切になる。かつて、「上の言うことだから」となんの疑問も持たずにしたがってきたことには意味があった。何故なら、そのまま我慢していればいずれ必ず相応の対価が得られたからだ。しかしいまは違う。我慢しても対価が得られない可能性があるし、それに気づいて上に文句を言おうと思った時には、上はもういないかもしれない。言われたままに動くことを求められ教育されて来た我々が、対価も求めず従い続ける様は、さながら戦時中の特攻隊のようなものだ。
こうして古い価値観と自分の本心と向き合い、自分のいるレールの先に得られる物がないと判断した場合、違うレールに移る、あるいはレールを降り自ら道を探し当てるという判断も重要な選択肢の一つだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2011年5月8日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年5月7日

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