パースのプラグマティズム: 可謬主義的知識論の展開

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  • 勁草書房 (1985年9月1日発売)
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パースの哲学を可謬主義的な科学的探究についての理論とみなすことで、実在論的な後期のプラグマティズムに至るまでの思索の展開を、整合的に理解する試み。

本書ではまず、パースの反デカルト的知識論の内容が検討される。パースは、私たちの認識は推論的・媒介的な記号過程だと考え、無媒介的な直接的認識を知識の基礎に置こうとする立場を批判する。こうしたパースの立場からは、自我もまた、直観されるものではありえない。むしろ自我とは、無知と誤謬、およびこれを退けようとする欲求の、記号過程における焦点として理解されなければならない。こうした立場では、ある認識内容の有意味性は、それが行為に関わるような効果を有するか否かという基準によって判定され、その意味は、その効果を生み出す条件と効果との連結文によって定式化されることになる。こうして、パースは科学的探求を、信念のプラグマティックな確定をめざす営みとして理解する立場に立っていたということができる。

だが、科学的探求とは信念のプラグマティックな確定をめざす営みだとする発想は、個人の信念の確定という観点からの規定であり、科学的探求の自律性と齟齬をきたすことになる。このことが、パースの思索の進展を生む原因だったと著者は主張する。すなわち、科学的な理論によって捉えられる事物の普遍的・一般的な本性の存在論的な身分を確定するとともに、そうした普遍者へと至る認識とは何かという問いが考察されなければならないということに、パースは気づいたのである。

一般者は、いまだ具現化されていないものを含むため不確定であり、未来に具現化される存在者を措定するという意味で、時間の連続性によって規定されている。そして科学的探求の結果私たちが獲得することになる法則は、未来の事象のあり方を表示しており、私たちの行動を条件法的に規定する「習慣」を生み出す。ただし「習慣」とは、未来の状態についての一つの一般者を意味している。科学的探求とは、習慣を形成する過程にほかならない。

こうして、一般者についての存在論と、プラグマティックな意味論が、パースの科学的探求についての理論の中で結びつけられていたと、著者は結論づけている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 現代英米哲学・分析哲学
感想投稿日 : 2013年11月6日
読了日 : -
本棚登録日 : 2013年11月6日

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