デカルト入門 (ちくま新書 589)

著者 :
  • 筑摩書房 (2006年4月10日発売)
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本棚登録 : 379
感想 : 21
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一般にデカルトは「我思う、ゆえに我あり」という言葉とともに、近代的自我の確立者として知られているが、本書は、自然科学をはじめとする近代的学問の方法とその体系の基礎を構築した思想家としてのデカルトを紹介している。

デカルトは『精神指導の規則』において、アリストテレスの存在論に基づく従来の学問体系からの脱却を図った。アリストテレス以来、学問は「存在の類」に基づいて分類されると考えられてきた。デカルトはこうした発想を退け、数量的関係一般を扱う「普遍数学」という発想に基づいて、新たに学問体系を組織しようと試みたのである。

ただし『精神指導の規則』では、いまだアリストテレス的な認識論を脱却することに成功していない。彼は認識を、私たちの想像力の内に観念が形成されることと理解していたが、これは「感覚の内に存在しないものは理性の内には存在しない」というアリストテレスの認識論を受け継いでいたのである。

その後デカルトは、「永遠真理創造説」という考えによって、アリストテレス的な認識論を克服することに成功する。この説は、神が数学的真理を創造し、それを感性や想像力から独立のものとして私たちの理性に刻印するとともに、他方で物理的自然の法則として構成したというものである。これによって彼は、感性や想像力に立脚するアリストテレスの立場を脱却するとともに、プラトン的なイデアリズムとも異なる立場に立つことができた。というのは、そこでは数学的真理は、自然から超越した実在としてではなく、自然現象の内にその法則を構成するものとして存在していると考えられているからである。これによって、自然現象の数学的探求の可能性がはじめて開かれることになった。

本書は、デカルトの思想の「全体」像についての正確な理解へと導いてくれる良書だと思う。ただ、学問の方法と体系を刷新するという彼の仕事がどれほど革命的なことだったのか、初学者に伝わりやすく書かれていないように感じた。退屈な記述だという印象を与えがちなのも、そのせいなのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書版
感想投稿日 : 2011年3月14日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年3月11日

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