小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団

著者 :
  • 小学館 (2011年2月25日発売)
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感想 : 54
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この春公開されたドラえもん映画「新・のび太と鉄人兵団」にあわせて、企画された小説です。ノベライズは、「パラサイト・イブ」の瀬名秀明。彼自身ドラえもんマニアということで、映画では説明し足りなかったところを、うまく補足し、さらに自分自身でオリジナルストーリーを作り上げて、原作の世界観を損なわないように、また矛盾点がうまく説明できるように描いています。文字もそれなりに大きく、ふりがな付きなので小学生でも高学年なら問題なく読み進めていけるでしょう。

特に、科学的な部分で時折相当にマニアックな記載があります。例えば、「逆世界入りこみオイル」と「おざしき釣り堀」で作った鏡面世界の記述では、「鏡を境界面として、奥行きだけが逆向きになった世界が果てしなく続いているのだ。すなわち鏡の平面に垂直なベクトルだけがあべこべになった世界である。慣性質量と重力質量を持つ知性体は、そうした鏡面に向かい合ったとき、奥行きではなく左右が逆向きにあった世界と錯覚して周囲を認識する普遍的特徴がある。地表に立つ知性体は天体の重力を無意識のうちに感じ、天体の中心に至るz軸ベクトルをつねに新体制として確保しており、一方その主体は移動知と感覚知を持つがゆえに、おのれの進行方向を、あるいは視線などで注意を払う方向を、やはり無意識のうちにx軸として捉える傾向があるからだ。よって鏡面世界に入り込んだ知性主体に残された余剰のベクトルはy軸であり、彼らは左右があべこべになったものとして世界を認識する。これは知性主体がどのように設計、制御されていようと、共通して起ち現われる主観である」(p89)などということがさらっと書かれています。だけど不思議と全く違和感なく作品の中に溶け込んでいる。それほど的外れなことが書いてあるとも思われず、わかったような気になり、満足感を覚えます。瀬名秀明の手腕にのせられていると言うべきでしょうか。最後まで映画を見ているようにビジュアルな光景が目に浮かび、わくわく、はらはらしながら最後まで読みました。とても面白かった。満足しています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月19日
読了日 : 2011年9月4日
本棚登録日 : 2018年11月19日

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