青春の蹉跌 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1971年5月27日発売)
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蹉跌とは、つまずきやしくじりを意味する言葉である。つまり、青春時代に味わう挫折、といったところか。

主人公・江藤賢一郎は法律を学ぶ学生で、成績抜群。司法試験に合格し、末は教授か弁護士かという有望な青年である。ただ、彼が法律を学ぶのは、世のため人のためといった崇高な使命によるものではない。彼自身の家庭は貧しく、学資も資産家の伯父から出して貰っているが、将来の出世栄達により、いわば逆・玉の輿に乗り、自分の人生の一発逆転を狙っているだけなのである。そのため、彼の性格は極めて打算的でエゴイスト。自分以外の他人は皆、敵であり、機会を見てはうまく利用してやればいいなどと考えている、とんでもないヤローなのである。

司法試験に合格し、資産家の伯父の娘との結婚話も持ち上がってきて、いよいよ道が拓けようとしていた江藤に、しかし、大きな落とし穴が待っていた。それは、自分の愛欲を満たすためだけの女性の友人・登美子の妊娠であった。登美子の家は、会社を経営する父親が破産し、貧窮の底にある。登美子は江藤に対し、結婚をしてくれ、子供を産ませてくれとせがむ。江藤は進退きわまり、登美子を殺害するに及んでしまう。

そこから先は、察しが付くかと思われる。法の番人になろうとしていた江藤が、逆に法に裁かれる立場へと転落していく、まさに青春の蹉跌。江藤は確かに頭がいいのだが、それは専攻の法律の世界においてというだけで、世の中のこと社会のことにおいては、あまりに無知でありすぎた。とにかく勝ち馬に乗りさえすればいいという、狭い視野でしか物事を捉えられない青年の悲劇がそこにあったのである。

儂もすっかり勉強オタクになっているが、江藤のような男にはなるまいと反面教師のつもりで読んだ次第。

ちなみに著者の石川達三氏は『蒼氓』で、第1回の芥川賞を受賞した人物である。いい小説をたくさん残した方なので、是非、1冊は読んでおきたいものである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 01.小説
感想投稿日 : 2010年12月19日
読了日 : 2010年12月19日
本棚登録日 : 2010年12月19日

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