毒気に当てられること必至の怪作。まさにタイトルどおりのアナーキーな展開で、読んでいる者の脳みそをひっかき回すに十分な作品だ。まず、驚くのは少年に取りつくという設定の「大杉栄」に関する著者の知識のべらぼうなことだ。著者はもちろんのことだけれど、担当編集者も膨大な作業をさせられたに違いない。巻末の参考文献の細かいポイント文字を見るだけで気が遠くなりそう。 著者のアイドル評論家としての知識も存分に生かされて、TVに登場する有名人たちもメッタ斬り。実名で登場させられる評論家の皆さんや文化人の方々はお気の毒さまだ。100年近く前に死んだはずの大杉栄の人間的魅力(女にもてることも含めて)と博識ぶりがたっぷりと披露され、その非業の死ゆえに「真のアナーキスト」として持ち上げられることへの苛立ちも語られる。過去何度かあった大杉ブームについて、彼がもてはやされる時代は夢が閉ざされた閉塞した時代だと看破するところには共感を覚える。 今しか通用しないポリティカルな話題や芸能人ネタもたくさん盛り込まれており、それがこの小説の賞味期限を短かくしてしまっていることが残念。最後が尻つぼみになりかけているけれど、この本のアナーキーな面白さに変わりはない。
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- 感想投稿日 : 2010年11月15日
- 読了日 : 2010年11月15日
- 本棚登録日 : 2010年11月15日
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