色々な意味でとても刺激的な読書体験だった。作家のアイザック・バシェヴィス・シンガーは、ノーベル賞を受賞したイディッシュ語作家だ。ユダヤ人の言語だということは知っていたが意識したことがなかった・・・東欧のマイナー言語で絶滅が危惧されているという。そうか、ユダヤ人国家のイスラエルはヘブライ語だった。イディッシュ語はユダヤ民族の宗教と文化に濃密に結びついた言葉でありながら、ディアスポラの歴史と辺境の烙印を押されているのだ。シンガーの文学も、イディッシュ語であることと不可避である。
ユダヤにまったく興味がない人はこの作家を読めないだろう。旧約聖書の宗教観に貫かれ、現実ともファンタジーともつかない民話的な語りには悪魔の類いが跳梁跋扈する。ユダヤ固有の固有名詞がばんばん出てくる。そして聖地イスラエルから離れ、ヨーロッパやアメリカに散り、ナチスの迫害を受けた流浪の民族の宿命が、内側から描かれる。
私もイスラエルに行く前に読んだら混乱していただろうし、行ったからこそ余計面白く読めた。彼らが、古代から連綿と続く、かくも独自の宗教と文化を共有していることに感嘆。そして、国家なき民族としての強烈なアイデンティティと、それが生み出した世界の混乱について思いを巡らせる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
海外
- 感想投稿日 : 2015年6月22日
- 読了日 : 2013年7月24日
- 本棚登録日 : 2015年6月22日
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