大好きな本 川上弘美書評集

著者 :
  • 朝日新聞社 (2007年9月7日発売)
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感想 : 30
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川上弘美の書くものは何でも好きなのだけれど、特に書評には、はまる。本人があとがきでも書いているように、書評を読んでどんな本であるのかを知りたいと思うのであれば、別な書評子を当てにした方がよいが、川上弘美がどれだけこの本を、というかこの作者のことを気に入ったのかを知りたいのであれば(そして、その審美眼を羅針盤として頼り、出版物の大海原を旅したいと思うのであれば)、これ以上の読み物はないと思う。

読売の書評の後、朝日の書評を始めた頃、そろそろ誰かが彼女の書評をまとめて出版するだろうとのんきに構えていたが、いやはや随分と掛かりましたね。勿論全ての書評が取り上げられている訳ではなくて、記憶にある、あの書評やこの書評が編まれていないということはある。それは残念でもあるが、ぎりぎり文字を成すことを生業とする川上弘美の職業意識の表れなのかと思い納得もする。

とは言うものの、衝撃モノのマニル・スーリーの「ビシュヌの死」の書評なんて、川上弘美にしか書くことが許されないようなものだった、と自分の記憶はしつこく訴える。破天荒なところ、それも川上弘美の文字の世界のいいところで、まあ、それは敢えて書評の中にまで求めずともいいのではあるけれども。

こうして一冊に編まれた書評を改めて読んでみて思うのは、実は不思議なことに川上弘美が放っているオーラというか影響力の及ぶ空間が、意外に時間と密着しているものなのだな、ということだ。これは彼女の個々の文学作品を読んでいる時に感じる非具体性、没固有名詞性とは、全く逆な印象なので、とても意外。

翻ってみるに、例えば短篇であれば、雑誌に発表されたデザイン性の高い頁に置かれたものを読んでも、単行本の中の白黒の文字列を読んでも不思議と印象が変わらないのに、むしろともに文字の持つ情報を主とするはずの、新聞紙上に発表された書評とこうして集められたものを読んだ時に受ける印象の差が大きい。その差を単なる時代性という言葉で集約することは間違っていると思うけれど、何故かそれ以外の理由が思い浮かばない。

それにしても、朝日新聞社の英断には拍手。よりによって読売紙上に発表された書評も入れてくれちゃうとは!紙面を選ばず、それでいて発表する媒体によって微妙に立ち位置を動かす(と言っても、右足を少し外へ向けたりするくらいのことだけど)川上弘美の書評集を、画竜点睛を欠くことなく読めるのはすばらしいことです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2007年9月24日
読了日 : 2007年9月24日
本棚登録日 : 2007年9月24日

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