長編はいくつか読んだが、短編集は初めて。巻頭は「パーキー・パットの日々」というディックらしい想像力を刺激する題名の作品だ。内容は核戦争後のシェルターで人形遊びに興じる人々の話。異常と悲惨と滑稽が見事に調和し、愚かだが愛すべき人々の姿を描き出す。しかもエンディングでは彼らが新しい世界へ踏み出す姿が描かれており、なんとこれはディック版「オメラスを歩み去る人々」であった。感心して他の作品も読み進めていくと、短編だけにアイデアの消化がメインで人間の内面を描き出すような作品はなかった。巻末の解説を参照すると「パーキー・パットの日々」のみ60年代の作品で、最晩年の一篇を除いて、他は50年代前半の作品であった。なるほどと腑に落ちて、ディックも最初はこういう作品を書いていたのかと、後に巨匠となる若い作家の情熱を思うとこれらの作品の味わいも深まった。それにしても、本書の表紙カバー絵は二色刷りの線画で描かれた不気味なものだが、昔のハヤカワ文庫のカバー絵は同じく不気味さを感じさせてはいたがフルカラーで色調は明るかった。カバー絵に魅せられて本を買ったこともよくあった。なぜこのような陰気なカバーにしたのだろう。色彩豊かなほうが若い人は興味を持ちやすいと思うが。素人にはわからぬ理由があるのだと思うが、あまり玄人好みに作ると読者層が広がらないのではと、昔のきれいなカバー絵にわくわくした人間は余計な心配をしてしまうのである。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2017年8月15日
- 読了日 : 2017年8月13日
- 本棚登録日 : 2017年8月15日
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