あの戦争になぜ負けたのか (文春新書 510)

  • 文藝春秋 (2006年5月19日発売)
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目次は以下の通り。

第1部 半藤一利・保坂正康・中西輝政・戸高一成・福田和也・加藤陽子による座談会。
1. 対米戦争の目的は何だったのか
2. ヒトラーとの同盟は昭和史の謎
3. 開明派・海軍が持つ致命的欠陥
4. 陸軍エリートはどこで間違えた
5. 大元帥閣下・昭和天皇の孤独
6. 新聞も国民も戦争に熱狂した
7. 真珠湾の罠 大戦略なき戦い
8. 特攻、玉砕、零戦、戦艦大和
第2部 あの戦争に思うこと(各人の寄稿)

対談の個別の話はそれぞれ情況証拠のような形では、理解できるのであるが、いくら統帥権を振りかざして暴走する軍部でも、日米間では国力に圧倒的な差があり、更に石油まで米国から輸入しているにも関わらず、何故日本は対米戦争の決断をしたのかが、いま一つよく分からない。

第2部の最後に、東大助教授(当時)の加藤陽子が以下のように述べているのが、その解であろうか?

「『米関係史』や『太平洋戦争への道』などの古典にはじまり現在にいたる厚い実証研究の蓄積は、開戦にいたる日米関係について、外交・政治・経済の各方面から詳細に明らかにしてきた。開戦直前の日米交渉が挫折した理由もほぼ解明されている。・・・(略)・・・ただ、以上のような説得力ある説明を読んでもなお、次のような感想を抱いてしまう人は依然として存在するのではないだろうか。なるほど、大西洋における戦線を維持するためアメリカは、ドイツの攻撃を受け止めているソ連の戦線離脱を阻止しようと、いわば、裏口からソ連・英国を支持するため太平洋戦争に入っていったようだ。ということは、日本とアメリカのあいだには、その固有の二国間関係から結果的に導かれる、戦争にいたらねばならなかった死活的な争点といったものはなかったのではないか。ならば、なぜ日米戦争は起こったのか・・・そう、いつのまにか、議論はふりだしへと戻っていく・・・(略)・・・やはり日本が米英蘭との開戦を決意しなければ、太平洋戦争はあのようなかたちではおこらなかった。その点をしっかりと見つめる必要がある」

このあと、加藤は、当時の中国文学者竹内好の日記に例を引いて、以下のように述べている。
「開戦とともに、歴史は作られたとの感慨を抱ける当時の知識人の感性。国と自らを一体と認識できる感性。泥沼の日中戦争が太平洋戦争へと果てしもなく拡大してしまった、という現代のわれわれが抱く受け止め方とは、まったく違った認識がここにはある。さらにいえば、歴史と国と自己を重ねて捉えようとする竹内の認識には、当時、軍部が、自らの存在意義を語る際の、ある論理と響きあうものがある」
更に、討幕の例を持ち出して、「武士たちは、本務としての戦闘に自己の生命をかけたのと同様に、国家の政治組織の中で与えられた職務上の責任を果たすためにも、必要であれば生命をかける覚悟でこれに臨み、私的な利害関係には全く捉われない態度を貫くことを理想としていた・・・(略)・・・幕府が列強の武力のまえに己の武威の実体が露見することを恐れ、決然たる態度をとらなかったのは、私心あるゆえ、とみなされた。公儀という言葉には、私心を去った公平無私な正しさ、という重要な意味があった。攘夷を出来なかった幕府は、名分論に目覚めた武士にとっては、もはや公儀たる資格を失ったのである。
明治維新によって、近代日本の繁栄が築かれたとの歴史観は、統帥部のみならず、(前述の)竹内好にも国民にも共有されていた。そのような歴史観が前提となっている社会にあっては、まずは、既成政党が私的利害をを代表するものとして斥けられ、ついで、国民組織による軍事と政治の一体化をめざした近衛新体制運動が幕府として斥けられた。歴史と国と自己とを同一化させ、自らが新しい歴史にたちあうとの自己イメージを持つ者に、もっとも近く寄り添っていたものが軍の歴史認識であったということ、この点が重要であろう。
日本側が開戦を決意する背景には、このような歴史認識が流れていた」

なかなかうまく纏めることが出来ないが、要するに軍部の独走を許す、国民的な「気分があった」。その気分というものは、確かに日本の歴史の中で、「忠臣蔵」や「二・二六事件」に見られるように、動機が私心を去ったものであれば、日本人は拍手喝采を送るという心情に由来していると。
今日のようにメリット・デメリットを計算して合理的な行動を取る日本人がそこには居なかったということであろうか? その時代の空気というものは、その場に居ない未来に位置する我々から想像することは、難しい問題ではある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年3月1日
読了日 : 2016年3月1日
本棚登録日 : 2016年3月1日

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