母の遺産: 新聞小説

著者 :
  • 中央公論新社 (2012年3月1日発売)
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感想 : 121
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水村美苗さんが2012年に発表した小説「母の遺産 新聞小説」を読了。前作の「本格小説」も日本語が美しい小説だったが、本作も読み疲れない素晴らしいらしい文章で構成された美しい小説でした。

この小説のテーマはイケイケな母親を持った娘の母親からの精神的な脱出というものではないかと思う。筋書きはイケイケ母親の老い、介護、その死、自分の夫婦関係の崩壊、そひて自立といったもので、こう書いてしまうと大したドラマではないように聞こえるであろうが、この小説のタイトルにある新聞小説というものがこの小説の大きなスパイスとなっている。

それは母の母(主人公にとっては祖母)の生き方に影響を与えその娘である主人公の母の人となりを作ることに影響を与えたのが祖母が生きた時代一番影響力のあったメディア新聞に載っていた連載小説「金色夜叉」であり、祖母は「金色夜叉」の登場人物お宮に自らを重ね合わせて生きていて、その娘お宮の娘(主人公の母)もしたたかに戦後の混乱期を生き抜いてイケイケな生活を手に入れるまでになる。

そんな母のもとで育った娘は自分のことを不幸であると思い生活をしているところから物語は始まるのだが、夫との関係の清算、遺産の分割、そして長期旅行と自分の人生の再整理をしていく中で自分が決して不幸ではないことに目覚め明日を見つめ生きていこうとする姿勢を保つ様にこの小説を読む多くの人が感動すると思う。

特に物語のクライマックスが展開される長期滞在に向かった箱根のホテルで繰り広げられる人間模様は秀逸であり、居合わせる宿泊客たちの人生が交錯するさまもフィクションではあるのだがさもありなんといった物語が組み込まれていてぐいぐい引き込まれてしまうこと請け合います。この小説はお勧めです。

そんななかなか小説の主人公としては描かれない50代女性の生き方へ目覚めを描いた小説を読むBGMに選んだのがKeith Jarrettの”Live at the Blue Note"だ。
https://www.youtube.com/watch?v=Q38RgbAtgUA
6枚組だか無駄のない演奏が詰まっています。

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感想投稿日 : 2018年1月25日
本棚登録日 : 2017年12月4日

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