女子とニューヨーク

著者 :
  • メディア総合研究所 (2012年8月25日発売)
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本棚登録 : 353
感想 : 28
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NYCはアメリカの中でも、別格の位置を占めている。不景気で魅力は減ったとはいえ、そこを舞台にした物語はまだまだ健在だし、そこを目指して進む人間もあとを絶たない。そんな夢の都・NYCを取り上げた本ということで、発売後にすかさず入手。表紙イラストもキュートだけど、加工がまた凝ってて素敵。

NYCに住む女子の恋とお仕事とお洒落を扱った物語はどれもエキサイティングで面白いけれど、オリジナルと思えた部分が「本歌取り」の宝庫であって、それを知ればさらに面白くなる。女子的にその核となるのは、やっぱり“VOGUE”。名物編集長の数々のうち、ダイアナ・ヴリーランドの終わり→グレース・ミラベラ→アナ・ウィンターのはじめにかけての“VOGUE”は、ガキの頃に妙にハマり、背伸びして買っていたこともあったので、懐かしさと嬉しさとで「この時代、ど真ん中ストライク!」的な得意感も手伝い、第1章からぐいぐい読んだ。

実は、NYCを描いた作品には、裏メニュー的に展開されている要素がある。それが、「プレッピー」と呼ばれる存在。NYCの核になる業界では、この「アメリカ東海岸アイビーリーグ卒、お坊ちゃまお嬢さまソサエティ」に籍を置かないと、本当のうまみを受け取ることができない。実力で駆け上がった人物ももちろん多いけれど、突然にはしごを外され、「転落」していくのも当たり前。職業・育ちに関して、とりあえずの平等感がまだ残っている日本からみれば、実力本位の見本のような街が、こんな原理で動いているのを知ると、正直しょっぱい。「誰でも夢がかなう都、ニューヨーク」のキャッチコピーを刷り込まれた身としてはなおさら…学生時代、海外留学を夢見ていた頃に知って、ある意味冷めたところもあるけど(笑)。キラキラした憧れの外見の一枚下にある、こうしたダークサイド(というか、大方の外国人と、米国内の地方出身者が見たくない現実)の種明かしをしてくれるのが、この本の肝だと思う。山崎さん、ある意味容赦ない。

都会に憧れる女子がNYCから受け取るメッセージを決定づけたのは、映画版『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーで、その流れを受け継ぐのが、ドラマ『SEX AND THE CITY』のキャリー・ブラッドショーだという。この2人を重ね合わせた第4章の読み解きはワンダフル。サクセスフルでハッピーなNYCはただの蜃気楼でしかないけれど、そこを理解しつつ、ひょっとするとその蜃気楼をリアルに変えられるかもしれないと思って奮闘する女子の姿が描かれるから、NYCを舞台にした作品はいつも辛辣で面白いのだろうと思う。

予想していたよりもはるかに密度の濃い、NYCお洒落と人気ドラマ・映画の系譜ガイドだった。とりあえず、NYCを知るには“VOGUE”とプレッピーとホリー・ゴライトリーはマスト。あと、ちょっとだけイーディ・セジウィックと。この本で紹介された世界からはしばらく離れていたけれど、レナ・ダナムの作品は観てみようと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本の本もどうぞ
感想投稿日 : 2012年9月5日
読了日 : 2012年9月5日
本棚登録日 : 2012年8月25日

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コメント 2件

niwatokoさんのコメント
2012/09/05

「夢の種明かし」をされているので、なんだか悲しくなってしまったのかもしれません。そう、容赦ない。でも、それが真実なんですね。だからこそ、夢を現実にしようと奮闘できる「女子」(実年齢関係なく、いろいろ頑張れる、夢見られる)なのかな。
わたしも女ウディ・アレンって書いてあったレナ・ダナム見てみたいです。

Pipo@ひねもす縁側さんのコメント
2012/09/05

現実とはいえ、こういう背景を知るって、ミステリのネタばらしをされるよりもしょっぱいですね。落胆すると同時に、「けっ、どこでも同じかよ!」と逆ギレしそうになります(笑)。そういう意味では、オードリーのホリーは罪つくりなアイコンです。

私もいまどきの20代女子の心理からは遠くなっていますけど、こんなタフな街でじたばた奮闘する姿に刺激を受けられるから、NYCドラマ・映画なんかが好きなんだろうと思います。レナ・ダナムの『ガールズ』、見てみたいですね。

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