新しいウイルス入門 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社 (2013年1月18日発売)
3.73
  • (20)
  • (25)
  • (29)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 290
感想 : 35
4

ウイルスに関する一般的な知識に加えて、巨大ウイルス発見という新しい話題、そしてウイルスの起源と生物進化に関するやや突っ込んだ話まで、一般向けに平易に書かれた本である。
「ウイルスって何?」という疑問が生じたら、まず読んでみるとよいだろう。

ウイルス(virus)の語源はラテン語の「毒」である。細菌よりも小さく病原性を持つものとして見つかってきた。DNAまたはRNAをゲノムとして持ち、宿主細胞内でのみ増える存在である。
ウイルスは、自力では複製できないことから、現在、一般的には生物でなく物質と見なす研究者の方が大勢を占めているようだ。但し、この辺りは「生物とは何か」という議論の裏返しでもあり、今後、定説が変わる可能性もある。

ウイルスが注目されてきたのはなぜかと言えば、もちろん病気を引き起こすからなのだが、ウイルスの存在は、病原体というだけには留まらないのではないかというのが本書の1つのテーマである。
ウイルスの分類、生活環、病原性のメカニズム、生物進化において果たした役割、巨大ウイルス発見がもたらしたもの、という流れで進んでいく。
何らかの結論を導き出すには、まだ決定的な証拠を欠く段階であるように感じるのだが、ウイルスの起源や生物の細胞核の発展というテーマはなかなかスリリングで可能性を秘めていると思う。

著者は努めて平易に書きつつ、一方で参考文献に学術論文も入れるなど、詳しく知りたい人への心配りもあり、親切な本だと思う。
が、くだけた口調が親しみやすいと思うか鼻につくと思うか、反応が分かれそうな感じが、個人的にはした。


*個人的におもしろいなと思ったのは、
・ノロウイルスと血液型:ノロウイルスは細胞表面の糖鎖に結合することで宿主に入り込む。この糖鎖は赤血球・十二指腸・小腸で共通するものであるらしい。赤血球の糖鎖といえば、つまり血液型を決めているもの。そのため、ある型のノロウイルスにはO型のヒトが感染しやすい、なんてことが実際にあるようだ。どの型のヒトが感染しやすいかは、ノロウイルスの種類によっていろいろのようだ。
・インフルエンザの亜型(H○N○といったもの)は、A型インフルエンザについてのみ。BやCでは多少の変異はあれ、亜型を形作るほどではない。
・巨大ウイルス、ミミウイルスには、コバンザメのようにくっついてくるヴァイロファージなるファージがいる。正確には感染ではないようだが、ミミウイルスと一緒に宿主に感染し、最後にはミミウイルスを破壊してしまう。
ミミウイルスにしれみれば、宿主をやっつけて、してやったりと思ったら、自分がしてやられていた、みたいな。

**病原性を持つ厄介者というだけではないという視点は、細菌を扱った『細菌が世界を支配する』を思い出させる。

**ウイルスと進化というテーマについては、『破壊する創造者』も参考になるかもしれない。

**中国発のH7N9インフルエンザウイルス。大流行に転じるかどうかの鍵を握るのは、ヒト間感染がどのくらい広がっていくかだろう。cf.『パンデミック新時代』
異種間感染から同種間(ヒト・ヒト)感染に変わっていく経緯については、『インフルエンザ・パンデミック』(河岡義裕ほか・ブルーバックス)が参考になる(本書でも参考文献に挙げられている)。但し、本書より骨があるので、少々気合いを入れて読んだ方がよいかもしれない。2009年、H5N1の大流行が危ぶまれていた当時の本であるため、具体例はそちらの亜型に関してだが、大まかなイメージは掴めると思う。乱暴に総括してしまえば、ウイルスがヒト上気道で増殖できるように変異し、その結果、症状も重くなり、咳やくしゃみによる伝播も簡単になるのが1つのキーポイントであるようだ(もちろん、他の要因も絡んでくるのでそれほど単純な話ではない)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 生物
感想投稿日 : 2013年4月28日
読了日 : 2013年4月28日
本棚登録日 : 2013年4月28日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする