人間と動物の病気を一緒にみる : 医療を変える汎動物学の発想

  • インターシフト (2014年1月16日発売)
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著者の1人、バーバラ・N・ホロウィッツは心臓専門医である。
医師として、もっぱら「ヒト」の治療に当たってきたわけだが、霊長類の治療を依頼されたのをきっかけに、人間と動物の病気の共通点に気づくようになる。
がん。依存症。自傷行為。失神。肥満。拒食。不妊。思春期のさまざまな問題。
こうしたものの症状はときに非常に似ている。
だが、医学と獣医学の交流はさほど盛んではなく、獣医師が当たり前に知っていることを医師が知らない例も多い。
ヒトと動物の病気を一緒にみる、汎動物学(ズービキティ(Zoobiquity = Zoo(動物)+ ubique(遍在)))の視点を取り入れたとき、より広い大きな流れが見えてくるのではないか。本書はそのエキサイティングな見方を紹介する1冊である。

汎動物学では、医学や獣医学に加えて、進化医学の考え方も取り入れる。
ヒトを1つの種として考えたとき、疾患がどうして生じてきたのか、その背景には進化上の必要性が絡んでいることがある。失神や恐怖による心臓発作は、元々は捕食者と対峙した際に「死んだふり」をすることで、「戦う」でも「逃げる」でもなく、敵をやり過ごす1つの手段だったという説がある。
自傷行為は「過剰グルーミング」の形と見る見方がある。グルーミング(毛づくろい)は快感をもたらす行為で社会的コミュニケーションの役割も果たすが、これが行き過ぎたものだというものだ。
背景が推測できれば、対処を考えることも可能であるし、動物で適用される治療がヒトに当てはまる場合もあるかもしれない。

また、動物とヒトの疾患を比較することで、違いは何か、同じ点は何かを検討することも可能である。
腫瘍の分野ではすでに研究がある程度進んでいるという。イヌとヒトの癌は非常によく似ている。イヌには癌になりにくい犬種があるが、その要因が何かがわかればヒトでの予防や治療に役立つかもしれない。乳牛は乳癌にかかりにくいこともよく知られており、その要因が何かも興味がもたれるところだ。
心の病に関しても、社会的生活を営む動物とヒトとの(特に思春期の)比較から、さまざまな示唆が得られている。

全般に、目が見開かれるような、斬新な視点やおもしろい事例が多い。
一方で、十分な証明・解析がなされているわけではなく、まだまだ新しい学問なのだなと感じさせる。
それだけこの分野には可能性があるということなのだろう。

現代のヒトの疾患を特別視するのではなく、歴史の流れや、他の動物種との類似・相違を探ることで、見えてくるものは多そうだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2018年5月25日
読了日 : 2018年5月25日
本棚登録日 : 2018年5月25日

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