独房・党生活者 (岩波文庫) (岩波文庫 緑 88-4)

著者 :
  • 岩波書店 (2010年5月15日発売)
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感想 : 18
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『党生活者』
 小林多喜二の描く共産党員の非合法な生活。共産主義自体が禁止されていない現代ではなかなか想像しがたい当時の空気感のようなものがひしひしと伝わってきた。小説とはいえ彼の実体験に基づいた話であり、リアリティのある描写が印象的だ。1930年代の日本で共産党員として活動するということがどういうことか、これを読めばよく分かる。地下に潜る自分を心配してくれる母親の様子を気にかけつつも、自身の思い描く理想のために犠牲を顧みない主人公。彼の想いに触れ、100年ほど前にはこのような考えを持っていた人がこの日本にいたのか、と考えさせられた。共産主義という思想が古びて聞こえる今だからこそ、そこから少し離れたところから当時の活動を見てみると学ぶことも多いのではないか。

『独房』
 この作品では『党生活者』に比べて当時の政治思想はあまり表現されず、代わりに独房での生活を皮肉を込めてユーモラスに描かれている。一見するとプロレタリア文学らしくない作品だったが、この点については共産主義者のあいだでも批判があったようだ(後に付されている蔵原による「解説」を参照)。プロレタリア文学らしい作品を求めていた私には少し物足りない作品だった。

「解説」
 蔵原惟人による解説は小林の作品に対する評価について学ぶことも多く有益なもので、とりわけ小林の作品には前近代的な要素も含まれているとする論争(「ハウス・キイパア」論争)に関しては個人的に非常に興味をそそられた。2つの作品を読み終えたあと、この解説にも是非目を通してほしい。
 小森陽一による解説は、この改版が出された2010年に付け加えられたものだが、私にはあまり面白いものではなかった。この解説に18ページも割かれているものの、その大半は『独房』や『党生活者』からの引用で占められ、解説というよりは要約に近い印象を受けた(これだけ長いと要約とも呼べない気もするが)。まるで、小学生が読書感想文で文字数を埋めただけのような解説、といった印象しか残らなかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年11月17日
読了日 : 2013年4月16日
本棚登録日 : 2013年4月11日

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