沙中の回廊 下

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2001年1月1日発売)
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感想 : 5
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読後気分→キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━ !!!!!!!!!!
士会(勇者)と郤缺(中ボス)と趙盾(魔王)の三人の争いに興奮してました。勇者ったら姫の役もやらなきゃいけないらしくって、魔王の意をうけた中ボスから誘拐されたり魔王から懐柔されたり大変なんですけど。
…っておフザケはここまでにしましょう。上巻もなかなかに面白かったですが、下巻の面白さはそれを上回りました。

士会が政治の世界に足を踏み入れ、当時の宰相趙盾の政治手法に反発して、隣の大国秦へ亡命するも、晋の賢臣郤缺の謀略にかけられて呼び戻され、晋において活躍し、最後宰相にまで上り詰めるまでの話。

ずっと思ってたんですけど、宮城谷昌光って「人間の主観」ってことをとっても意識している人なんじゃないかなーと、思うのです。
例えばこの本で言うと、上巻においてまだ士会が若かったころ、特に有能な人材も輩出していない(ように見える)のに、士家がなかなか繁栄しないことを主君の悪政のせいにしてしまおうとする士会とその兄の姿や、士会が「この人は兄に冷たい人だな」って察した途端、大才で人格にも不足がないと描かれていた趙盾が段々悪役になっていく姿など…。(あっでもあんな自分勝手なくせに優柔不断されたら誰だって怒ると思いますが)
士会の主観バリバリ入ってるじゃないですか。その主観が地の文にまで書かれてるので、一見それが事実なんじゃないかと思うんですけど、でも本当は違うかもしれない、って思う余地がぽこぽこ何処かにあるような感じなのです。
…語りすぎましたね…。

まあそんなこと考えなくても、趙盾失政…じゃなかった執政時代の政治抗争(マヌケな国君とワガママ執政の体を張ったコントともいう)で楽しんだり、晋の霊公ってどういう思いでこうなっちゃったんだ…と登場人物の裏側の感情に思いを馳せたり、士会の親ばかっぷりを横目で見て爆笑することができる素敵な作品だと思います。

印象的だったのは、士会が宰相として権力を振るったのはたったの二年でしか無いということ。いろんな目にあって、ゆっくりとゆっくりと本当の才能を育てていっても、その才能がおめみえするのは本当に短い間というのが、逆に素敵でした。
そしてあれほどまでに自分の才能に自信のあった士会が「こうやって宰相になったのは長生きしてるだけだから」というくらいものすっごく謙虚になったということです。でも、こういうことばを、実際に今まで志半ばで散った数多くの同僚の悲惨な末路を考えていった言葉だとすれば、とても自分にたいして自信のある発言ってことになりますね…。そこが面白かったです。

あとがきにも工夫が。まさか士会があれほどまでに忌み嫌った趙盾の孫に士会評をいわせるとは。入念ですね!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説系
感想投稿日 : 2013年3月31日
読了日 : 2013年3月31日
本棚登録日 : 2013年3月3日

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