69 sixty nine (文春文庫 む 11-4)

著者 :
  • 文藝春秋 (2007年8月3日発売)
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本棚登録 : 3411
感想 : 256
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個人的に思うところが多くて中々感想を書きづらい。僕が幼少期から、主人公の言う『家畜』側の人間だからだろう。だからと言って、主人公の感性には殆ど共感できないが、この『共感できない感情』すら誰かから強制された感覚なのではないかと疑ってしまいたくなる。ただ少なくとも、主人公こと筆者の言を信じるならば、白髪の生徒会書記長は赤軍に入った挙句シンガポールで逮捕された。自分勝手だとしても自ら考えることができる人間より、思考停止で何かを妄信する人間の方が危ういのかもしれない。
著者はあとがきに、「楽しんで生ないのは、罪なことだ」p242と書いた。より詳しく書くなら「楽しもうと努力しないことは、罪なことだ」とも言えるのではないか。苦痛を我慢し適応しようとする僕とは根っから正反対なんだろう。羨ましいとは思わない、ただただ感心する。羨ましいと思わないのは、そうして得られた結果には必ず苦痛がつきものだからだ。今作の主人公についても、彼の行動でどれほどの苦痛を主人公自身や周囲に及ぼしたか知れない。結果だけ見れば勿論羨ましいが、そうした苦労と天秤にかけてどちらが傾くがと言う点で、主人公と僕は正反対なんだろう。
ただ、このあとがきが1987度版で、この冊子には更に2007年度版のあとがきが追加されているのも面白い。いや、面白いと言うより、「あんなに息巻いていたのに寂しいこと言うなよ…」となる。何が時代を超えて普遍的な事象であるかは、注意深く見なくてはならない。
「90年代初頭バブルが崩壊し経済は縮小して、冷たい水を浴びせかけられたように人々は多幸感から醒め、現実と向かい合うことになる。そして今、若い人に向かって『楽しんで生きないのは、罪なことだ』とアドバイスする余裕は、わたしにも日本社会にももうない。」p244
「現在必要なのは『どう楽しんで生きるか』ではなく、更に基本的で切実な『どうやって生きるか』という問いだからだ。」p245

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 村上龍
感想投稿日 : 2017年10月14日
読了日 : 2017年5月7日
本棚登録日 : 2017年5月7日

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