未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命 (新潮選書)

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  • 新潮社 (2012年5月25日発売)
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ゾクゾクするような論理展開。持たざる国である日本を軸に第二次世界大戦に突入し、玉砕覚悟の総力戦に至る思想に迫る。

「明るくなったろう」お札を燃やして灯りを点す。有名な教科書の挿絵、第一次世界大戦の特需に沸いた成金が出発点だ。日露戦争による巨大な外国債務により日本経済は青息吐息。企業の倒産が相次いでいたところに、第一次世界大戦が長期化した事で、ヨーロッパ諸国日本から軍需品を輸入し始めた。戦争特需に加え、ヨーロッパからの輸入品が来なくなり輸入に頼っていた物資が不足。鉄、硫酸、アンモニア、化学染料、薬品、ガラスなどなど。これらが派手に値上がりしていく中、国産にすることで儲けようと言う投資が活発化。日本は局地的に参加した青島戦で、物量や兵器の近代化、血対鉄の力学を学ぶ。持たざる国を脱却しなければならぬ使命感が増す。

銀河鉄道の夜、ジョバンニの台詞を引く「ぼくたちここで天上よりもっといいとこをこさえなけぁいけないってぼくの先生が云ったよ」法華経の教え。天上彼岸に行って救われようとするキリストや親鸞とは違う、現世で立場を変えるのだ。

田中智学の造語である八紘一宇。共感したのが石原莞爾。目指すは満州。満州により、日本を持たざる国から変えようと。更に日本古代の書、開戦経。勝ち負け生き死ににこだわらずひたすら闘い続けるのみという真鋭の観念。生きて虜囚の辱めを受けず、バンザイ突撃に通ず。最高のまことは、みこと。すめらみこと。玉砕こそ持たざる国の必勝兵器。こうして、精神論を成就させ天皇の軍隊は散りゆく御霊へ。

全てが意識的に繋がるものではないが、通底する論理展開。至上命題であった持たざる国の克服が導く歴史の壮絶さ、然り。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年4月17日
読了日 : 2023年4月17日
本棚登録日 : 2023年4月16日

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