3巻まででも十分に名作たりえる本作。
でもこの4巻をもってして自分の中では人生BEST5に食い込むほどの作品になった。
特筆すべきはラスト。
トラウマを乗り越えたかに見えた橘はまたうなされる。
「全然大丈夫じゃねーじゃねーか!!」
僕たちの現実だってそうだ。
物語のハッピーエンドのような大きな悩みの解決、
そういうものがあっても、また何度だって僕たちは同じものに悩まされる。
現実はそんな簡単なものじゃない。
だけどその後で、橘はそんな自分を笑う。
笑うってのはそれを対象化できてるってことで、以前より深刻に捉えていないのは明らか。
つまり端から見たら小さな一歩ではあるけれど、彼は前に進んだんだな。
「いい天気だぜ・・・」
彼の長い夜にほんの少し光が差し込んでる。
大きな解決があっても結局何も変わらない日常。
でも何も変わらないように見えてもほんの少しづつ物事は明るい方へ向かっていく。
千影の描写もそれを裏付けてる。
橘は結局頼ってきた千影に「どんなに時間はかかっても一人でやれ」と言う。
どんなにゆっくりだってほんのちょっとずつだって、進んでいけるし変わっていけるし良くなっていける。
現実に抱えてる傷が今すぐきれいに癒されなくても、全然焦ることなんてない、ゆっくりでいいんだから。
そんな作者のメッセージが感じられるラスト。
この作品のラスト、すっきりしないってレビューを見たことがある。
橘がうなされなければすっきりしたラストだったんでしょうね。
そういう従来的なフィクションで救われてる人もいる。
というか大半の人がそうなんだろう。
それもわかる。お話の中くらいみんなちゃんと幸せになってよって。
でもそういうありきたりのハッピーエンドでは、現実と引き比べて逆に傷つく読者もいるんだろう。
作者はそういう人たちに語りかけてる。手を差し伸べてる。
この作品を世に出してくれてありがとうと言いたくなる作品。
余談だが、4巻で過不足なく完結したかのように見える本作だが、自分の中では同人誌の「永遠はありますか」をもって完結としたい。万人に薦められる内容ではないが、橘と小野、いろんな意味で商業誌では描けなかった結末がそこにはある。
- 感想投稿日 : 2011年5月21日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年5月21日
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