きょう、反比例 編集者・竹井正和

著者 :
制作 : さとうりさ 
  • フォイル (2006年8月22日発売)
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竹井正和さんのことは、社納さんの書いた記事「一人で闘え。怒りを忘れるな」(http://www.jinken.ne.jp/be/minority/takei/)で読んで知った。リトルモアをつくった人なんやーと思った。リトルモアといえば、私にとっては夏石鈴子の『バイブを買いに』。たしかあの本の「あとがき」かどこかに、リトルモアの編集者に頼まれたか誘われたか、そんな話が書いてあった(その編集者が竹井さんかどうかはわからんけど)。

まだ現物を見たことない雑誌「Re:S」(りす)や「真夜中」を出してるのもリトルモア(地方小の「We」とちゃうねんから、本屋にあるんかな…)。

竹井さんのインタビュー本『きょう、反比例 編集者 竹井正和』を読んでみようと思ったら、近所の図書館になくて、ヨソから相貸できた。この本は、リトルモアを辞めて竹井さんが立ち上げたフォイルから。

本とは無縁の世界で育ってきた、身近にあったのはスポーツ新聞、あれが唯一の活字やったな、「今でも僕の親や妹は本を出版することにどんな意味があるかなんてわからへんやろし、これっぽっちも興味ないと思う」(p.11)と語る竹井さんの冒頭のこの言葉。

▼ちょっと想像したらわかるやろ?人が育った環境から受ける影響って大きいで。まぁ、僕にとっては最大のコンプレックスやね。今でも本に囲まれて育った人に対して、ジェラシーみたいなのがあるよ。自分はそこへ絶対行けないんだって。(p.10)

高校を出るまで教科書くらいしか読んでなかった竹井さんは、そろばん塾で教えるようになって、本屋をのぞくようになる。 22歳のとき、ピッカーー!という本に出会う。それが林竹二『学校に教育をとりもどすために―尼工でおこったこと』。林さんの本を読み漁って、径書房から出ている林さんの本に出会う。

「むっちゃ感動して」「とにかく、その本を作ってくれた人に感謝の気持ちを伝えたかってん」と、径の社長だった原田奈翁雄さんに手紙を書いた。そして、この林先生と子どもたちの存在を一人でも多くの人に知ってもらおうと動き出す。

その、23歳の時の竹井さんの手紙がこの本にある。その一節。

▼…あれからの二年間に、いろいろな出会いがあり、苦悩がありました。同じように悩む若い人たちがたくさんいる。自分一人が苦しんでいるわけでない、もっともっと苦しんでいる人がいると思うと、アホな損な生き方でいいから、生きて生き抜かなければならないと思えてきました。権力を持つことも、金持ちになることも、そんなことどうでもよくなりました。すばらしい友に出会うために、精一杯、今という時を生きる。それが私の人生です。まだ見ぬ友に、乾杯! (p,38)

流行を疑う

▼… 社会派と呼ばれるジャンルにだって流行と傾向はある。チェルノブイリ原発の事故が起きた時、チェルノブイリの本がいっぱい出た。みんなやった。次に阪神大震災が起きた、やっぱり関連した本がいっぱい出た。そういう動きを見ていると気分が悪くなるねん。だから僕は大事件、大事故が起きてもすぐ本にはしない。世の中には、流行っていることを単純に題材にする人がたくさんいるわけ。でもそういう人のほとんどは、売れることだけ考えて、本質はどうでもいいと思ってんねん。僕はどうでもいいと思っていない。そんなのをジャーナリズムと呼びたくない。ジャーナリズムはそんなに甘くない。安全なところに身を置いて世の中の動きに合わせてものを言うてるだけやん。それじゃ会社員と一緒やろ? かといって、殺されることもやぶさかでないと思って戦場へ行くことが真のジャーナリストかっていったら、それも微妙なことやと思う。そのハザマで迷いながら探りながらやっている人が一番信頼できるな。同じテーマに人生かけて活動していても、目立つ人と目立たない人がいる。そのことと、本物なのかただの流行モン好きなのかは、別の問題やから。(p.150)

本の中には、リトルモアやフォイルで出した本や雑誌の写真がときどき入っていて、「映画日本国憲法」の読本、『「映画日本国憲法」読本』がフォイルから出てるんやと知る。このDVDは父からまわってきてウチにあるけど、本は知らんかった。こんど借りてみようと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 図書館で借りた
感想投稿日 : 2010年3月4日
読了日 : 2010年3月4日
本棚登録日 : 2010年3月4日

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