あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房 (2003年9月30日発売)
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8作品からなるテッド・チャンの短編集。全体的に、世界の認知を問うストーリーが多い。”あなたが今見ている世界は『本当』なのか?”を突きつけられている気分。
言語による認知への影響はいくつかの話でテーマとなっていて、それは脳の機能的な話に加えて、それら観測された”事象”にどういう解釈を与えるのか?という点で宗教が実に本作に深く根ざしているように思える。
「七十二文字」や「バビロンの塔」は少し世界観の部分が難しかったけれど、思考実験という意味では面白い。多くが90年代に書かれた本なだけあって、発売当時に読んでいればもっと衝撃受けていたのかも。各話の概要は下記。

・「バビロンの塔」
バベルの塔をテーマとし、高く高く塔を建設していったとき、最前線の技師が辿り着いた宇宙の秘密とは。

・「理解」
植物状態からの復活に際し、超人的能力を手に入れた男。圧倒的な世界への理解力を手にし、自らの肉体が持つ全てを使い、世界の限界を知ろうと踏み込んだとき、同じ能力を持ったもう一人の人間の存在を知る。
超人エンタメとして面白い。

・「ゼロで割る」数学者の孤独。ゼロで割ったときの数式の矛盾を見つけ、数学という学問の意義を問い、葛藤する。

・「あなたの人生の物語」
表題作。地球外生命体との画面越しの交流と、互いの言語体系を理解するための不思議な試みの日々。ある日、地球外生命体は理由も告げず去ってしまう。

・「七十二文字」
オートマタに72文字の”名辞”を与えるとその動きを与えられる世界において、その技術は遺伝子操作技術に繋がっていく。プログラミングで多くの機械が動く現在、人類の生殖ルールさえもプログラムできてしまうとき、その技術はどう使われていくのか。

・「人類科学の進化」
遺伝子操作によって超人類が生み出され、”旧来の”人類に理解不能な科学が生まれた世界。自分たちの全く及ばない知能を持つ子供を、親は、社会は、いかに育てるのか、という疑問に突きつけられた社会。

・「地獄とは神の不在なり」
天使の降臨という”災害”が存在する世界における、宗教を超えて地獄と天国が見える世界での死生観について。ある人は愛する者の不条理な死を受け、ある人は先天的障害が克服された、”奇跡”に対し、人はどう向き合うのか?

・「顔の美醜について」
顔の美醜の認識を制約する装置”カリー”の是非についての議論。それは脳の認識器官を弱め、世界に間違ったブラインドをかける装置なのか、それともルッキズムに苦しむ人を救うものなのか。導入の可否が広く議論される。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年6月13日
読了日 : 2021年5月8日
本棚登録日 : 2021年5月2日

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