ハウルの動く城 [DVD]

監督 : 宮崎駿 
  • ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント (2012年3月10日発売)
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感想 : 822
4

予告編を見て、なんだかダメっぽいなあと思たのですが、宮崎監督の映画だから見ないわけにはいかないので、期待せずに行ってきました。
もう一月以上前のことですが。

過剰な期待をしてなかったのが功を奏して、うん、見て良かった。そう思いました。
「千と千尋の神隠し」の域にはむろん達していませんが(あれは滅多なこと到達できるレベルではない)、「魔女の宅急便」や「天空のラピュタ」、そして「紅の豚」よりもデキは良い。
ということは当然そこらへんに転がっているたいていの映画よりも優れた作品ということになるので、見て損はないわけです。

ヨーロッパ系はイマイチだなんて前に言いましたけど、「魔女の宅急便」にしろ「天空のラピュタ」、「紅の豚」にしろ、どれもが水準以上の作品であることは間違いなくて、実は最近知ったんですけど、宮崎作品の中ではこれらの作品が一番だという人もいるんですね。それぞれに熱烈なファンがいるわけです。

私だったら「魔女の宅急便」では、プロペラ付き自転車で海岸沿いの坂道を下って飛翔するシーンだとか、森の中の絵描きの女の子が忘れられないし、「紅の豚」は一度しか見たことはありませんが、オジサンのダンディズムを一生懸命えがいているところが泣かせるので、また見てみたいと思います(なぜか「天空の城ラピュタ」は苦手。かったるい)。

ただこれらの作品は、「風の谷のナウシカ」「隣のトトロ」「千と千尋の神隠し」という傑作群には及ばない。
むろん、そうはいっても、モーツアルトやベートーヴェンの曲だってどれもが最高傑作というわけではなくて、それ以外にもいい曲はたくさんしるし、それぞれが高さと魅力を備えていて、多くのファンの心を掴んでいます。宮崎監督の作品もまあそういうことなんでしょうね。

「パウルの動く城」はその中でもよくできた作品だと思います。
これまでのヨーロッパを舞台とした作品の中では、もっとも優れているといってもいいかもしれません。

以下感想を箇条書きで。
とりとめのない内容ですが。

・主人公ソフィーの家の色調
荒れ地の魔女が訪ねてきて彼女に魔法をかけますが、この時ソフィーがいた居間、ここの家具の赤っぽくて艶がある色調は、欧米の絵本なんかによくある色調ですよね。
「千と千尋の神隠し」の湯婆婆(ユバーバ)の家でも少し感じたけれども、この場面ははっきりそれを意識しているようです。
ヨーロッパの観客を意識したのかな。
こういう色使いをしているアニメは初めて見ましたが、ハッとするような鮮やかさでした。

・魔法使いハウルの扱い
予告編では、気の弱い魔法使いといってましたが、そんなことはないよなあ。
一箇所そういうシーンがあったけど、そこだけとらえてよくもあんなキャプションをつけたものだ。それが映画全体のイメージを狂わせてると思う。ハウルは、かなり危険で強大な存在。
ただ、夜中に戦場を飛び回って、いったいなにをしているんだろうと思いました(単なる好奇心?状況把握?)。

・色っぽいシーン
宮崎映画は性的なニュアンスはほとんどないのが普通で、そういう意味では実に健康的な映画ですが、最初の方で、ソフィーにとっては思いがけずハウルの腕や顔が接近したシーン、このときのハウルはドキッとするほどセクシーですね。というか、そういうふうにソフィーが感じているということを観客に分からせるシーン。
宮崎映画ではめずらしい色っぽいシーンです。

・ソフィーの年齢
誰でも気がつくでしょうけど、ソフィーはだんだん若返っていきますね。
もちろん彼女のハウルに対する愛情の深さが、荒れ地の魔女による魔法を打ち破ろうとしていることを示しているんでしょう。これはアニメだからできる荒技で、実写版だったらとうてい不可能な表現方法。
それがうまくいっているかどうかといえば、正直あまり印象に残っていないのは、監督がこの手法を、映画を構成するひとつの要素としてしか扱ってないからでしょう。
それはそれでいいんですが、これに似た手法をとった作品して、大島弓子の「夏の夜の漠」が思い出されますね。
こちらは登場人物を精神年齢で描き分けた作品で、その手法がもたらすラストシーンの効果は絶大なものがあって、実に切ない名品です(角川書店 ASUKA COMICS 「つるばら つるばら」に収録)。

・サリマンの位置
この人はいったい何者なんでしょう。魔法使いサリーのお母さんみたいで上品そうなオバサンだけど。
いい人のようでも悪い人のようでもある。
よくわからない。不思議な位置にいます。

・傑作群との違い
この作品がよくできているにしても、先の3つの傑作との違いは歴然としています。
それはなぜだろうと考えているんですが、ヨーロッパ系の作品は、監督が単純に、こんなものを作りたい、そうしたら自分も楽しいし、見る人も喜ぶだろうなあと思って作った作品。

「千と千尋の神隠し」以下の作品は、もちろん動機はおなじなんでしょうか、もうすこしほかの何かが加わっていて、つまりなにか伝えたいことがあって、それを表現しようするうちに作品が深化しているように思います。

ここらへんのことはまだうまく言葉にできてません。ただそれぞれの区分は自分の中でははっきりとあります(「もののけ姫」 がイマイチなのは、伝えたいことが途中で分裂してしまって、つじつまがあわなくなっていることによる)

そこらあたりの事情は、もう一度映画をみながら、ゆっくりと考えてみたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 映画:邦画
感想投稿日 : 2018年12月17日
読了日 : 2005年3月13日
本棚登録日 : 2018年12月17日

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