逃げてゆく愛 (新潮文庫 シ 33-2)

  • 新潮社 (2007年1月1日発売)
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本棚登録 : 191
感想 : 24
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印象的だったのは、「もう一人の男」「少女とトカゲ」「割礼」。

「もう一人の男」は、妻の死後に浮気相手を見つけてしまった夫が、その浮気相手の男に会いに行く話。浮気相手はとんだ嘘つきでみずぼらしい男だったが、最後にはその男の言うことの中に真実を感じられる。個人的に好きだったのは、男が亀好きだったこと。
「(前略)亀はお好きですか?」
「今まで一度も・・・」
「亀と関わったことはないんですか?家で亀を飼っている人でさえ、亀のことがわかっていないんですよ。そして、亀のことがわかってなければ、どうやって亀を愛せるでしょう?おいでください!」

「少女とトカゲ」は、一番文学的に素敵だと思った作品。小さいころから父の部屋に置かれていた小さな一枚の絵が、家庭の不和と重なり、やがて主人公が青年になって再び絵とともに暮らすようになっても、心を乱し続ける。青年はその絵の真相をつきとめるため、あれこれ探しているうちにシュールレアリスム画家のルネ・ダールマンが描いた「トカゲと少女」によく似ていることがわかった。その後しばらく生活していたが、ある時ついにその絵を燃やしてしまう。彼が燃やした「少女とトカゲ」の絵の向こうに出てきたのは、紛れもなくかつて調べた「トカゲと少女」で、やがて一緒に灰になる、という話。

「割礼」は、アメリカに住むユダヤ人の女性とドイツ人の男性との恋愛。宗教や歴史の違いを乗り越えようと話し合いをしたり、いさかいが起こったり、お互いの存在に安心したりしながら、最後は一緒にいられなくなって彼が立ち去ってしまうという話。
民族が個人の単位になっても、被害者と加害者の関係がぬぐえない、教育と文化の背景は交われないのだろうか。

シュリンクの作品は『朗読者』に続いて2作目だったが、今回も一つ一つの話がドイツの近現代を色濃く投影していて、深い教養や戦争の罪、民族性や父子の関係がやはり私を魅了した。
日本人という民族は、ドイツな感じがやっぱりとても好きなのかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2013年7月20日
読了日 : 2013年7月18日
本棚登録日 : 2010年12月2日

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