ビリー・ミリガンと23の棺 上 (ダニエル・キイス文庫 6)

  • 早川書房 (1999年10月1日発売)
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あらすじ:「24人のビリーミリガン」の続編。(参考記事:本レビュー:24人のビリー・ミリガン )

多重人格障害(今は解離性同一性障害 という)のビリーは、連続レイプ事件で逮捕されるが、精神病のために責任能力なしという判決によって無罪となり、精神病院に入る。しかし、政治家やマスコミ、一般市民の圧力により、最重警備施設のライマ精神犯罪病院に入れられる。そこで受けたのは治療ではなく、虐待であり、またもや人格が分裂する。ライマに送られてから、自由の身になるまでの物語。

やっぱり、ビリーは天才。

ビリーは、数々の虐待も乗り越え、施設の中でビジネスまで始めてしまう。そして、他の患者を扇動し、暴動を起こす。他の施設に送られてから、医師達の意見が合わず、薬物療法を続けてもらえないことに恐怖を感じたビリーは施設を逃亡。またつかまって、今度はハンガーストライキ。ハンガーストライキの末コンピュータを手に入れ、施設のコンピュータをハッキング・・・。

周りはすっごい迷惑だと思うけど、どこにいても新しい可能性を見出すところは本当にすごいと思う。わたしにかけている能力やわ。芸術やコンピュータの才能があるだけじゃなく、人を動かす力もあるし、総合的に判断する力も持っている。もし、違う環境で育っていたら、ベンジャミン・フランクリン (電気の発見だけではなく、政治・外交・事業でも大きな成功を収めた人)みたいになってたかも?それとも、この障害があるがゆえにこの才能が生まれたのかな?

しかし、この才能があるのに、やはり他の人格になったときはすべてをぶちこわすようなことをしてしまう。どうして他の人格は自己の不利益になるようなことをするのか、やはり多重人格って不思議な病だ。しかし、脳陵を切断した人の中には、「他人の手」症候群 と言われる症状が現れる人があるという。右手が自分の意思とは無関係に動くというものだ。右手が自分を絞め殺そうとした事例さえあるらしい。だから、私達が自分だと感じているものは、実際にはビリーと同じくたくさんの人格の共同体なのかもしれない。それぞれが同じ目的のために働いているありの巣と同じだと思うとちょっと気持ちわるいな。

☆が前作より1つ減ったのは、今回の作品は、作者がかなりビリーサイドに偏った書き方をしていると感じたから。長い間一緒に仕事をしたために、ビリーに対する思い入れが大きくなったのだろう。でも、ビリーに関わるそれぞれの人の立場に立つと、悪のように描かれている人たちもそれぞれ意見があって、彼らの目では正義のために行動していたのではないかと思える。実際、統合されたビリーがどれほど良い人間だとしても、分裂したビリーが何をするかわからず、しかも、いつビリーが分裂するかわからないとしたら、やはり、近辺をうろつかれるのは不安を感じるだろう。

この手の本はとても面白いし、様々な想像をかきたててくれる。ただし、自分の精神状態が安定しているときでないと、若干引きずられて欝になるので、注意が必要な気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年7月11日
読了日 : 2010年6月26日
本棚登録日 : 2011年7月11日

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