三つ首塔 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (1972年8月22日発売)
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本棚登録 : 1081
感想 : 78

 本作は、その昔、古谷一行が金田一耕助を演じたTVドラマ「横溝正史シリーズ」で見ており、犯人が誰かと、音禰と高頭五郎との濃厚ラブシーンだけは鮮明に覚えていた。
 が、それ以外は完全に忘却。
 ここまで音禰が色々な殺人現場に出くわしていたことは素直に驚かされた。

 元より戦後直後、大学まで進学した令嬢がストリップ劇場やSMクラブに出入りし、また闇ブローカーや女(男)ジゴロに危うい目に遭う(一線は超えないが)件は、官能小説ばりだなぁという感慨はないではない。

 ただ、それにも増して高頭五郎とイタしたため官能に狂い、彼とのSEXなしに耐えられない女になった音禰のあり方。意外にも、極端にも見える展開は、一旦は、ストックホルム症候群によるのか?と思わないではなかった。
 しかし、良家の子女が、頼りがいはあるが乱暴な振る舞いをする男、30~40年代には男らしいと規定された男に零落させられ、「女」と化してしまったことは、現実にも物語的にもないではない。
 それは些か型通りのきらいはないではないが…。


 というようにみると、本小説は、ミステリーというよりも、ラブ・アフェアーというべき作品なんだろう。というあたりで個人的には落ち着いたところ。


 ところで、TVドラマ版は、「犯人」の暗く歪な愛惜感情を前面に出して、小説ラストより、犯人最期のシーンを印象づける演出であったと記憶している。
 そういう意味では、本書の読後感とはかなり異質である。
 つまり、仮に展開や筋立てが同じであっても、音禰の一人称で語られる物語と、神の目で語られる作品の印象が違うことになると言えそうだ。
 それはまた、一粒で二度美味しい作であるとも言えそう。


 とはいうものの、高頭五郎とのSEXに狂い、彼がいないと(というよりも、彼とのSEXなしには)生きていけないという描写を混ぜつつ、その五郎に対し「あなた」と呼びかけ、また彼を他者に対し良人であると規定してみせるのは、時代がかっている。
 男女の結びつき・性交渉=結婚の構図をまざまざと見せつける件だ。処女性の強調も同様。このあたりが、本作成立の時代層の反映を色濃く感じさせる。


 ところで、ドラマ版である。金田一=古谷一行は兎も角、記憶している範囲においては、宮本音禰は真野響子、高頭五郎は黒沢年男、上杉教授が佐分利信で、あと殿山泰司とピーターが出ていたような気が…。
 調べると、77年版とされる当該作品だが、その他のキャストは、〇佐竹建彦 - 米倉斉加年、〇法然和尚 - 殿山泰司、〇古坂史郎 - ピーター。古坂史郎をはじめとして、さもありなんのキャストという他はないところ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年5月7日
読了日 : 2017年2月18日
本棚登録日 : 2017年5月7日

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