2015年刊行。
編著者は東京大学公共政策大学院客員教授。
「地方消滅」で叙述された東京ないし首都圏の問題に焦点当てをした書。ゆえに特段の新奇はない。
が、
① 東京周辺(都・神奈川県・千葉県成田市)に外国人医師と家事代行業の外国人受入特区を設定済みとのこと。周辺業態への拡大という未来像を想起できる現実だ。そうなれば事実上の移民解禁であろう。
② 介護施設の設置費用の過半が不動産取得費用にある点。
この程度は目を引く内容だ。
ただし、本書に書かれる問題は、東京ないし首都圏単独の問題でない。現に、本書においては、大阪府ないし大阪圏の方が、介護必要高齢者の顕著な増大という点で、首都圏より先に問題顕在化すると思しき記述がある。
ところが、視点は首都圏のみである。
他も多くはスカスカなそれ。
例えば、本書では介護職への給与水準の低さを問題視する、それ自体は真っ当な指摘だとしても、もし全国一律に給与水準が上がった場合、地方だけの雇用増を齎すのだろうか?。
多くの高齢者が住まう首都圏の雇用増を来すだけではないのか?。
さらに、都内の介護施設の設置に関する用地・容積基準を緩和するのが政策的に手っ取り早いから、そこだけに手を付けて、首都圏の問題を解決し、さらに問題を先送りするだけなのでは、との疑問も?。
そもそも、本書は高齢の要介護者及びその予備軍の、東京乃至首都圏から地方への移動、つまり政策的IないしUターンを実現しようと目論むものである。
そして、そのIないしUターンが「トリンクルダウン」的に、介護職を中心とする若年層の雇用を地方に生み、地方の自治体消滅を回避しようというものである。
が、ここで挙げる政策の採用がちぐはぐであれば、地方に費用負担だけを押し付ける帰結を招来しかねない。
なるほど本書は、そうはならないように一応の配慮をしているが、政策の部分採用ないし政策効果の見通しを誤れば、本書の提言が首都圏のみの生き残りを画策したものとの評もあり得るのではないか。
- 感想投稿日 : 2016年12月4日
- 読了日 : 2016年12月4日
- 本棚登録日 : 2016年12月4日
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