人は誰しも影を持っている。光に照らされると壁に、或いは地面に描き出される物体としての影。それとは別に己の内界に存在する暗い領域、無意識としての影。「影」が古来より生命や魂と結びつけて考えられてきたことを繙きながら、ユングの「影」の概念や「影」が齎す心の病理を実例や神話、文学作品から引用して説きつつ、また「影」の世界として機能していた地獄の有用性や意義、「影」の逆説として存在する道化についての論考、最終章は「影」とどう向き合うかについて述べられています。影は正しく、切っても切れない関係であり、影は内界での、通過儀礼としての死の門として存在し、また創造の生まれでる場所でもあると著者は言います。全体を通してとても興味深く読みました。光と影、意識と無意識、自我と自己、二つの世界が持つ複雑で奇妙に相互作用し、または反発し合うこれらのものが一人の人間の内側に折り畳まれていることに何か途方もない、気が遠くなるような感じを覚えます。裏を返せばそれだけ人は未知なる可能性を秘めているとも言えそうです。絶えざる破壊と創造、死と再生は影なくしてはあり得ないもの。人の最も暗い部分に生きる力が眠っている――そんな気がしました。解説が遠藤周作なのも豪華。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
心理学
- 感想投稿日 : 2021年3月6日
- 読了日 : 2021年3月6日
- 本棚登録日 : 2021年3月6日
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