長梅雨なので題名に惹かれて読んでみた。これがデビュー作だったのは知らなかった。100頁少しの本だけど、ピンとくる言葉が沢山あって嬉しくなった。
こよみさんは事故で新しい記憶が出来なくなる障害を負ってしまったけど、芯がしっかりした素敵な女性。「あたしのいる世界は、あたしが実際に体験したこと、自分で見たり聞いたり触ったりしたこと、考えたり感じたりしたこと、そこに少しばかりの想像力が加わったものでしかない」「だけど、新しいものやめずらしいものにたくさん会うことだけが世界を広げるわけじゃない。ひとつのことにどれだけ深く関われるかがその人の世界の深さにつながる」「面白いと思えるものがあったら、それが世界の戸口」「楽器をしっかり身につけておくと、音楽を聴くときの深さが違う。楽器は自分で弾くためだけにあるんじゃないよ」
行助のことを考えるととても切ない。一緒に暮らす人と、日常の些細な記憶の積み重ねを大事にしたいのはよく分かる。それでも忘れても忘れても育っていくものがあること、ふたりの世界が少し重なっているのを実感して前を向く爽やかな物語。「無限の九割の道が閉ざされてしまっても、まだ一割残っている。無限は一割でも無限じゃないのか。」
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年7月30日
- 読了日 : 2020年7月30日
- 本棚登録日 : 2020年7月30日
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