ブクログで出会った本。印刷会社で働いていたのと、活版印刷の独特の風合いが好きなので、タイトルで惹かれた。読んでみると予想以上に素敵なストーリーだった。
舞台は川越にある小さな活版印刷所、三日月堂。身寄りを亡くした弓子さんが祖父のあとを継いで再び店を再開し、持ち込まれる様々な依頼を通じて周辺の人々と関わり合い、それぞれのご縁を紐解いていく展開。最初と最後の章が特に好きだった。家族との繋がりを考えさせてくれた。
自分もDTPの仕事をしているけど、今も使われている「組版」という言葉は字面通り「版を組むこと」だったんだなということが実感できた。文字にはそれぞれ重さや長さがあり、物質的なものだったのだということ。最終章のデザイナーの金子くんの言葉にはすごく共感できたな。「仕事してても指にはマウスとキーボードの感触しか残らないし、実体のないものをパソコンの中で動かしていくだけ。だからこそ自由に発想できるんだけど、脳の中だけで仕事してるみたいな感じもして、手触りがない」
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を改めて読んでみたくなった。
●印象に残った言葉
「自分で自分の道を決めて、そこで人の役に立つ仕事をできるのが大人」
「だれも、だれかの代わりになんて、なれませんよ」
「版も活字もないけれど、印刷された文字はこうし’残っている。実体が消えても、影は残る。影が実体になって、いまもあり続けている。」
「文字がくっきりして見えるのは、凹みじゃなくて『マージナルゾーン』というもののせい」
「生きているものはみなあとを残す」
「仕事はいつだって探せる、でも人の縁はそうそう見つかるもんじゃない」
「空白っていってもなにも入ってないわけじゃない」
「過去が私たちを守ってくれる。そうして、新しい場所に押し出してくれる」
- 感想投稿日 : 2020年10月2日
- 読了日 : 2020年10月2日
- 本棚登録日 : 2020年10月2日
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