私のなかでは珍しいことだけど、序盤よりもラストに近づくにつれてどんどん引き込まれる作品だった。序盤はこの男の子態度が大きいなぁ、細かい日時とか全部覚えてたりして発達障害の傾向があるのかな?とか鍵穴を探してもお父さんからのメッセージとかがあるわけじゃないのでは?とかみんな突然の子供の訪問に親切だなぁとか気になって集中できなかったけど、オスカーの喪失体験が明らかになるにつれ、彼の受けたショックと罪悪感と深い悲しみがひしひしと伝わってきて涙なしには観れなくなった。今にも崩れそうな建物の中で、死を前にして必死で自分を呼ぶ父親の声、なんて聞いたら私も恐怖で受話器を取れないだろうなと思った。そうして父に応えてあげられなかった罪悪感を背負って生きていたんだなと思うとオスカーが可哀想で。
母親は、オスカーが鍵穴を探す旅をしていることを知っていながら、息子には黙ってオスカーが尋ねる家の人に頭を下げてまわっていた。そのことにまた感動した。オスカーは、苦しみを背負っていることを母に言えずに過ごしており、母に当たり散らしてすらいたけど、母の深い愛情に気づくことができた。
そして訪問先に手紙を書く。「鍵は僕が考えていたようなものではなく、失望したが、なにもしないより、失望したほうがいい。」というような手紙の内容がまた良かった。
ラストではオスカーも母も笑顔でいた。やっと、2人とも父の死を乗り越えられるようになったのだと思った。
鍵は結局父がオスカーに残したものではなかったが、鍵穴探しの旅の過程でオスカーはたくさんのことを学び、成長したのだと思う。
- 感想投稿日 : 2021年7月3日
- 読了日 : 2021年7月3日
- 本棚登録日 : 2021年7月3日
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