あと少し、もう少し (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2015年3月28日発売)
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瀬尾まいこさんの中学男子、部活小説。
以前「君が夏を走らせる」を読んだのだが、この話に出てくる「大田」のスピンオフ小説だったので、知っていたら、こちらを先読んだのに〜…とちょっと悔やまれた。


田んぼや山に囲まれた長閑な環境にある、市野中学校の陸上部。
年々生徒が減るので、部員も少ない。けれど、駅伝だけは毎年県大会に出場している。
部長となって最後の年を迎える桝井日向は、厳しいながらも実力のある陸上部を育ててくれた顧問の満田先生が異動になり、なんの経験もない美術教師の上原先生が顧問になることを知らされ、絶望する。
しかも、駅伝には6人必要なのに部員で長距離を走れるのは3人だけ。何とか他からスカウトしてこなければならない、頼りになるのは自分一人。
誰でも何でも、暖かく包み込める人間になれ、と言われて育った桝井。
この危機をどう乗り切る⁉︎


瀬尾さんは、思春期の男子を書くのがとてもうまい。
まだ、あどけなさを残しつつも、どう自分の殻を破っていくか実はもがいていたりする姿や、友だち同士の距離感を捉える目が鋭いと思う(最近の中学生を見る限り、彼らよりかなり幼い気がするけれど)。
長く中学校の教師をされていたこともあり、物語からもこの年頃の子ども達に対する愛情を感じる。
この話に出てくる、突如陸上部の顧問になってしまった美術教師の上原先生は、瀬尾さん自身がモデルなんじゃないだろうか?

今まで読んだ瀬尾さんの小説も良かったが、これはダントツに刺さりました。
実際の中学校生活は、こんな風にはいかないと思うけれど、それでも背中を押してくれる、希望をくれる一冊だと思う。
「大田」だけでなく、他の子のスピンオフもお願いしたい。特に私は、「ジロー」が大のお気に入り。


以下、桝井の心情で印象に残ったフレーズ

小学校の時はいろんなことがそのまま楽しかった。けれど、大きくなるにつれて、少しずつ楽しさの持つ意味が変わってきた。今だって仲間と笑って遊んでいれば楽しい。でも、もっと深い楽しさがあることも知っている。
無駄に思えることを積み上げて、ぶつかりあって、苦労して。そうやって、しんどい思いをすればしただけ、あとで得られる楽しさの度合いは大きい。

2020.5.28

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 913日本の小説
感想投稿日 : 2020年5月29日
読了日 : 2020年5月29日
本棚登録日 : 2020年5月29日

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