母さんが死んだ: しあわせ幻想の時代に

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  • ひとなる書房 (2014年3月1日発売)
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福祉制度はみんなのための「保険」だから、いざとなったとき、これを受けることは権利である。法律もそれを保障している。

というような文章が本文中に出てきます。本当にその通りなのです。けれど今の日本社会はそうなっていません。本文中で紹介されている様々な人の苦しみの声、訴えに胸が苦しくなります。
特に後半部の中学生のお手紙には胸が締め付けられます。

社会福祉制度の制度上の問題も確かに大きいものが様々ありますが、一番の問題はやはり「世間体」や「世間の目」というものの厳しさなのではないかと思います。
それはここに書かれた生活保護という福祉制度のみならず、高齢者や障害者、貧困者、要介護者や母子家庭、子育て支援といった多岐にわたる福祉制度全般に当てはまることだと思います。
様々な立場の「社会的弱者」に対する「日本社会の目線」は大変厳しい。それは決して「強者」と言えるような人々ではなくてむしろ社会的弱者により近いところにいる人々のほうが一層厳しいのかもしれません。

この「母さん」はどれほど、生きて子供たちの成長を見守っていたかったことでしょう。こんなに追い詰められれば誰だって辛いでしょうが、生来きちっとした人だっただけにその「きちっとしたいのにすることができない状況」にどんどん追い込まれていくのは耐えがたい屈辱だったのではないかと思います。
このお母さんが餓死してでも自分の状況を周りに知らせることを拒否し続けたのは人としての尊厳があったからです。

どんな人間も、どんな制度も、他人の尊厳を踏みにじってはいけないと思います。
ここに書かれていることは人権蹂躙の記録です。

これだけネットカフェ難民だ、就職難だ大量失業だといわれていても貧困というのは、何でも「自己責任」と言いたがる現代社会では関心を持たれにくい社会現象です。
そして、経験のない者や間近で見たことのない人には理解を得られにくい問題でもあります。

でも、これは日本社会に生きるなら誰もが関心を持たなくてはならない問題だと思います。
貧困という一つの現象だけでなく福祉の問題は様々に関わって絡み合っています。
自分が貧困という問題を抱えていなくても、今現在福祉のお世話になっていないとしても、一生のうち一度もそのお世話にはならないという日本人は日本の現代社会にはいないと思われるからです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会
感想投稿日 : 2014年7月4日
読了日 : 2014年7月4日
本棚登録日 : 2014年7月4日

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